Phlox

□Phlox
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「雰囲気変わりよるな。でもワシはこっちのが好きやで」
「ありがとう。私も貴方のそういうとこ好ましいと思ってる。超絶面倒臭いけど」

にっこりと綺麗に、だが清楚というイメージはない、妖艶さを含んだ笑みでまどかは笑った。わざわざ声音も表情筋の使い方までも変えているらしく、目の前でチェンジしてなかったら別人と間違えそうだ。

「こっちは花宮によう似とる思うわ」
「そっちばっか見てるからそう思うんでしょ。印象の問題ね」
「ああ、せや。天使の微笑み、やけ。花宮得意やわ」
「真は甘いのね。神の領域に足を踏み入れてからが勝負だから」
「ほー、ほんま怖いわー」

気が抜けない、と今吉は思う。読み合いなら確実に花宮以上だ。偶に気紛れに視線誘導やらを織り交ぜてくる。それをしても特に意味はない。黒子や黛なら意味はあるのだろうが、彼女はかなり目立つ。目の前でマジックをやってるでもない。見張っていても、わざと釣られてみても何をする事もない。そこに意味はないのか。
理由なく嘘を吐くタイプであろうか。いや、理由は楽しいから、とかそんなもの。愉快犯か。本当に質が悪い人である。

と、途端に表情が黒いまどかから白いまどかに変わる。自然過ぎて何処で切り替わったのか分からなかった。まるで一部が少しずつ変化していくトリック動画だ。注意してなければ分からないだろう。

「失礼致します。こちらは…」

店員がきたから切り替えたようだ。ここまで徹底するか。本当に女狐のようだ。妲己というのはこんな感じだったのだろうか。本人です、と言われてもいっそ納得がいく。そんな思考を今吉はしてしまいつつ、思わず苦笑する。
テーブルにランチが並べばまどかは軽く店員に会釈をして、またスッと切り替わる。

「食べましょ。冷めるから」
「おん。そうしよか」

何処か楽しげな様子でそういうと、きちんと挨拶をしてから器用にパスタをフォークに巻いて口に運ぶ。絵になるな、と思いつつ自分も食べ進める。
ふと彼女が目を上げた時に愉快だと言わんばかりの、いっそゲスい笑みを浮かべたのは見間違いではないであろう。

「真が、中学時代はポジション取られた、とか言ってたのは貴方のことみたいねえ」
「向こうの方が別ポジでもいけただけとちゃう?」
「ふーん」

未だにまどかは楽しげに笑っている。いや、懐かしんでいる、のだろうか。今吉はそう思いつつ首を傾げる。

「どうかしたん?」
「いいえ。ただ、真が悔しがる割に愉快そうだったから、会ってみたかったの。今吉先輩とやらに」
「悔しがっとったん。それは愉快やわ」

それは一度見てみたいと思いつつ今吉は少し笑いを漏らした。絶対今吉の前ではそんな顔を見せてくれる事はないであろう。花宮とまどかの付き合いは短そうであるが、大分仲が良いようだ。

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