NOMAL

□素直
1ページ/2ページ

――朝目覚めて、携帯を見る。
もうすでにあいつは起きているようだ
たまの休日なのに早起きもいいところというもので。



「おはよう」



毎日欠かさず送られてくるメッセージ


俺が『おはよう』と返信すると、5分もせずに返事が来る。



――「おう。」
今日はいつもより元気がないように思えた。


朝食などを一通り済ませ、やる気を起こしながら動画の編集に取り掛かろうとデスクに向かい、作業をはじめようとした瞬間



トゥルル…トゥルル…




電話だ。
何だ、と思いながら携帯に目を向けると、
あいつだ。


『どうした?』

あいつから電話がかかってくることなど殆ど無い為、不思議そうな声が出ていたのだろう、

少し申し訳なさそうに、


「声、聞きたくて」


と言ってきた。

やはり、どこか元気がないように思った俺だったが、敢えていつもの様に振舞う。


『なんだよ、この前会ったばかりだろう、もう寂しくなったのか?』


「なってねぇよ、うるせぇ。」


『じゃあ、どうして急に?』



「駄目なのかよ、好きな人の声聞きたくなるのなんて、おかしい事じゃないだろ、」



少しだけむっとしたような声でそういうと彼は、


「…なぁ、今から会えないか?」


と、控えめに尋ねてきた。


正直、すごく可愛らしかった。
それ故に、少しだけ苛めてみたくなった。



『この前も会ったろう。
それに、今新しい動画の編集してて、忙しいし。』



そう言うと、明らかに無理をしている声で


「そう、だよな、ごめん急に、!
また会おうな。じゃ!編集頑張れよ」


と、いって電話を切ってしまった。



『あ…どうしよう。
ちょっと言い方キツかったかなぁ。』


本当は会いたくて会いたくて仕方が無かった俺は、パソコンを閉じ、
外出の準備をした。






いつも乗る電車に乗って、いつもの待ち合わせ場所へ急ぐ。


――次は……お降りの際は、忘れ物の無いよう―――



いつものアナウンスを聞くと、あいつにメッセージを送った。


『ちょっといつものところに来て?』


直ぐに既読が付き
そこから約30分程で彼はやってきた。






「えふやん、」




振り返ると、嬉しそうな顔を必死で隠そうとして、にやけてしまっている彼がいた。



『遅いよ、もう。』



「だって急だったから…」



『まぁ、いいよ、今回だけね。許してあげる』



「なんだよその言い方、」



『俺なりの、優しさァ?』



「バカじゃねぇの?

…またしばらく会えないのかと思って、寂しかった。」




『だから朝、元気なかったの?』




「…?!なんで知ってるの?」




『そりゃあわかるよ。お前のことだもん。』




「なにそれ、嬉しい、かも」




素直になる彼に、不意を突かれ

可愛い…という言葉が漏れてしまった。


すると顔を真っ赤にし、


「頭が悪い!!
ほんと馬鹿、」


と、罵声を浴びせてきた。



『ごめんな。電話の時
お前が可愛くて少し苛めてみたくなって。
忙しかったのは本当だけど、俺、会いたくて仕方なかった。』


「っ…バカ」


本当に彼はボキャブラリーの少ない男だ。



だからこそ、こうして直球で伝えてくる。




『俺は、どんなに忙しくてもお前に会いたいと思ってる

なんならずっと隣にいてくれてもいいと思ってる。』




「は??うるせぇよ!」



『ねぇ、』



「?」


小首を傾げて此方を見つめてくる彼。


馬鹿で、口が悪いけど
素直な言葉で、話す度に俺を好きにさせる。







今日は俺も、素直になってみようかな。











『好きだよ、』










みるみる赤くなる顔を隠す彼を、そっと抱きしめ、耳元でもう一度







――大好きだよ、くるぶし。







そう言い、頭を軽く撫でてやると

嬉しそうに微笑む声が聞こえてきた。



もう一度目を合わせた時。


「大好き。」


彼の真っ直ぐな真っ直ぐな言葉が響き、

互いに微笑むと

二人はまたいつものように笑い合いながら、

晴れた日曜の雑踏の中に溶けていった。










Fin.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ