駄文其の2

□其の瞳に焼き付けるのは
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※※※※※


「…あ?なんや兄弟、ボケっとしくさって。とうとう痴呆始まったか?」


そう声をかけられて、冴島ははっと我に帰った。

「…なんや、兄弟かいな」

「なんやとはなんや!こう、アホ面さげおってからに…」

真島は、苛々とした風に声を荒げる。

真島を見ると、いつものパイソン柄のジャケットではなく、ダークグレーのスーツにワインレッドのシャツという、いわゆる幹部会ファッションの出で立ちだった。

「ああ、もうそないな時間か…」

今日は真島が手がけた劇場跡地のホテルの完成パーティーの日だった。

「まだ準備出来とらんみたいやから、俺は先に行くで。お前みたいな暇人とちごうて、責任者は忙しいんや」

「暇人でもないんやけど…」

「あ?じゃあ何でボケっとしてたんや?まさかホンマにボケ…」

「アホか!…お前との、昔の話思いだしとってな…」

「…冴島…」

真島は冴島に近寄ったかと思うと、ぐいっと顔を寄せてきた。

「…昔話ばっか言い出すんは、ボケの初期症状やで?」

心なしか、哀れんだ声で言ってくる。

「…なんや、昔はお前も可愛らしい所あったんやな思うとったんやが…こないな悪態つかれたら、忘れてもうたわ」

「何言うとんのや?俺は今でも可愛らしいやっちゃやで?」

真島はそう言ったかと思うと、目をつぶって、あの日と同じく冴島の唇に己の唇を軽く重ねた。

「…兄弟、何しとんのや?」

「ヒヒヒ、今生の思い出や…どや?可愛らしい俺の事、思い出したか?」

意地の悪い笑みを浮かべながら真島は言ってくる。


「…アホか、ホンマに忘れる訳無いやろが?」


冴島は、小さく呟いた。




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