駄文其の2
□約束
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約束
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「なぁ兄弟、ちいと飯付き合うてくれへんか?」
「…あ?何や今からか?」
いきなり言われた真島からの誘いに、冴島は少し戸惑った。
それもその筈、今は昼飯と言うには遅すぎて、夕飯と言うには早すぎる時間帯。
「ちゃうちゃう、来週の木曜日にラーメンでもどや?」
「来週?今週じゃアカンのか?」
「アカンアカン!来週や、絶対来週の木曜日にな?」
何をそんなに念を推すのかと、ふとカレンダーをチラ見する。
「――あ」
来週の木曜日は、事もあろうにあの日と同じ日にちであって。
真島の片目と、冴島の25年間の自由が奪われた、そんな日――
その日付の意味に気が付いた冴島は、真島の顔を見詰めた。
すると真島は寂しそうな、それでいて悲しそうに隻眼を細めた。
「――今度こそ、約束、守らせてくれへんか?」
あの暑い春の日を、忘れることは無かった。
向かえなかった後悔。
それが消えることは、恐らく一生涯無いだろう。
片目を失ってもなお、それは赦される事は無い、自分に深く刺さった罪。
こんな戯れ言のような約束を守ったからと言って、その罪は消えることは無い。
しかし冴島は、そんな思いを知ってか知らずか、嬉しそうに笑った。
「…エエで。それでお前の気ぃが紛れるんならな?」
強く優しいその笑みは、燻る真島の罪の意識を、ほんの少し忘れさせてくれた。
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2016.4.11