駄文其の2
□其の瞳に焼き付けるのは〜刺青〜
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「邪魔するでぇ〜兄弟〜」
今日も真島は、冴島の住むアパートへと足を運んでいた。
「何や、今日も関西弁の勉強しに来たんか?」
小さなテーブルに置いてあった煙草に手を伸ばしながら、冴島は真島を向かい入れる。
最近は隙を見付けては真島は関西弁を教えて貰うためにちょくちょくアパートに顔を出すようになっていた。
最初は変な奴になつかれたもんだと思っていた冴島も、意外にも真島の真面目に関西弁を習おうとする姿勢に感心し、この事態を受け入れていた。
「おう!早く親父に認めて貰えるくらい、関西弁喋れるようになりたいんや!」
少したどたどしいと言うか、オーバーリアクションと言うか、ちぐはぐなイントネーションで真島は息巻く。
「そないに嶋野はんに認められたいんか…?」
「当たり前だろ!?親父に認められてこその極道ってもんだろ!」
冴島は煙草をくわえて少し残念そうな顔を真島に向けた。
「…真島、関西弁忘れとるで?」
真島はそう冴島に指摘された事に口を尖らせて眉を潜める。
「…だから、教わりに来てるんじゃねぇか…」
真島は、バツが悪そうに口を尖らせた。
「せやったら、今日はどないするんや?」
「せやなぁ、今日はお前の事、色々と教えて…っ!」
話をしていた途中で、真島は顔をしかめて身を捩るような動きをした。
その様子に疑問を感じ、冴島は心配そうに真島に伺う。
「…真島、どないしたんや?何や、どっか痛むんか?」
「…ちがう…っ!逆や逆。…ちょっと、痒くて…な?」
真島は、そう言いながら、着ていたYシャツのボタンに手を掛けた。
「ちょ…お前、何しよる…っ!?」
冴島の制止も聞かず、真島は次々にボタンを外して冴島に背を向ける。
勢い良くYシャツを脱ぎ捨てたかと思うと、冴島の目の前には細い体躯に施された、まだ筋彫りに少しだけ色が刺された刺青が現れた。
「ちょい前に色入れてもろうたんやけど…傷が癒えてくると、痒くてたまらん!」
背中一面に彫られた般若の顔、散らされた華には血を思わせる朱色が添えられている。
二の腕にも蛇が施されたその刺青は、ここからでは見えないが恐らく胸の部分にまでかかっているようだった。
「お前、随分広く入れたんやな…」
「ヒヒヒ、親父も同じように入れとるからな?俺も同じく入れたかったんや」
露になった背中を良く見てみると、所々が赤く腫れているように見てとれた。
「掻きむしったらいかんらしいから、ちょっと叩いてくれんか?」
真島はそう言いながら、自分で二の腕部分をペチペチと叩き出した。
「…ん?あぁ、叩けばエエんやな?」
冴島は、恐る恐る真島の背中に触れようと手を伸ばした。