駄文其の2
□其の瞳に焼き付けるのは〜冴島編〜
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笹井の親父に連れられて、初めて東城会本部まで連れて来られた冴島は、黒塗りの車の助手席に座っていた。
「お前も、この世界入ったなら勉強しなさい」
という親父の計らいだった。
「まだ時間が早いから、車で少し待つとしよう」
笹井の親父がそう言うので、車を降りて親父側の扉の横に立った。
(ここが東城会…)
キョロキョロと辺りを見回すと、同じような黒塗りの車が続々と集まってきていた。
今日は何処かの組長が亡くなったらしく、葬儀が行われると言っていた。
(親父が、東城会もまだまだ小さい組織言うとったけど、こりゃ圧巻やな…)
そうこう考えていたら、少し向こうにある車の横にも、キョロキョロと辺りを見回す人物がいた。
この場にそぐわない、スカジャンの襟から下に着ているパーカーのフードを出し、ジーパンにスニーカーという服装、サラサラとしていそうな髪は下の方が刈り上げられている。
(なんや…あいつも初めて連れてこられたクチかいな?)
よくよく見ると、自分より幾分幼く感じられた。
(中学卒業してすぐくらいやろか?)
クリクリとした大きめな目をしきりに動かして辺りを見回す姿には、まだまだあどけなさが残っていた。
気になって目でそいつを追っていたら、仕切りに後部座席の窓をコンコンと叩き出した。
「――なんや真島、何かあったんか?」
後部座席の窓ガラスが下ろされて嶋野が顔を出した。
「親父!親父!俺はここで何をすればいいんでっしゃろかいな!?」
真島と呼ばれたその少年はおかしな言葉で、大声で喋り出した。
すると、窓から顔を出していた嶋野が、真島を持っていた扇子でぴしゃりと叩いた。
「いで〜!何すんですか親父!」
「喧しいわ!親父にそないに馴れ馴れしくするアホが何処におるんじゃ!」
「でも、何をするか言ってもらえなきゃなんもできんでっしゃろ!?」
「そのけったいな関西弁やめいや!」
(…なんやあれ、漫才かいな…)
冴島は、遠目にそれをながめながらフッと笑った。
すると、運が悪い事に見ていた本人とばったり目があってしまった。
「…オッサン、何見て笑ってんだよ!」
真島と呼ばれた男が、ずかずかとこちらに歩みよって来た。
「いや、あないなデカイ声で喋られたら、嫌でも耳に入ってくるやろが…」
「あ!?お前、関西人か?」
こちらを睨んでいた目が、パッと見開かれた。
「関西人…まぁ、そんなとこやな」
「そか!オッサン名前何て言うんだ?」
「…オッサンちゃうで…俺はまだ16歳や…」
「えっ?年下なのか!?」
「あ?お前年上なんか?」
お互いに、意表をつかれたような顔をした。
「そかそか!俺の名前は真島吾朗。お前は?」
「…冴島大河や…」
「なあ冴島、俺に関西弁教えてくれないか?」
「…何をそんなに関西弁にこだわってるんや?」
「…嶋野の親父、関西人だから…俺は一人前の子になるために、とりあえず形から入ろうと思って…」
「…変わったヤツやなぁ…」
「まぁ、教えてくれなくても、勝手に会いに行くからな!じゃ、またやで〜」
そう言ってヒラヒラと手を振りながら嶋野の車に戻っていった。
「…嶋野の所にも、面白そうな若衆が入ってきたな」
笹井の親父が、窓を開けて冴島に話しかけた。
「…はい、なんや不思議なヤツでしたわ…」
「お前と歳も近そうだ。仲良くしておけば、嶋野との繋がりも持てるかもな」
「…はい、わかりました親父」
これから先、真島との数奇な運命が訪れる事は、今の冴島にはまだ微塵も感じることは出来なかった。
この先はあとがき