駄文其の2
□Mの戯
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「もう、沢山だ…!!」
少し頬を赤らめながら、しかし瞳だけは真っ直ぐと自分を見つめていた。
男にとって、しかも東城会六代目という地位にありながらも、女装という耐え難い屈辱も受け入れてくれた。
この男は、自分が言ったら何でも要求を飲んでしまうのではないだろうか…そんな気さえする。
「…危なっかしいなぁ…」
恥ずかしさに耐えながらも、一見折れそうにない真っ直ぐな瞳で見返すその姿は、真島の征服欲に火を付けた。
あぁ、コイツの心がポキッと折れる音、聴いてみたいのう…
頭の中で幾度となく自分の下に組み敷いてきた目の前の相手。
強い眼差しの相手ほど、屈伏させた時の充実感は格別な筈だ。
…相手は、そんな風に己の身を欲の対象に見られてるなんて、思いもしないんだろう…
「…真島さん、ゾンビももう居ないでしょうから、上に戻りましょう…くれぐれも、今日の事は内密に…」
「ちょぉ待ちや大吾。」
六代目でもなく、いきなり名前を呼び捨てにされ、大吾の体がピクっと跳ねた。
「何ですか、真島さ…」
ふいに、真島にが大吾に腕を伸ばし、壁際に追いやられる形になってしまった。
「真島さん!何をふざけて…」
「ふざけてなんか無いでぇ大吾、お前、こないおもろいモンを俺に黙っとけ言うんやったら、それなりの口止め、あるやろが」
「だから、それはさっき渡したろ!?」
「あないなモンで俺が満足すると思っとるんか?」
「じゃあ、何が望み何ですか…」
「もいっかい聞くでぇ?大吾…歯、磨いとるやろな?」
「…はぁっ?」
真島がそう問うと、大吾の顔をガッチリと両手で挟み込み、有無を言わさず深い口付けをしてきた。
ヌルリと、蛇のように己の舌に絡まってくる真島の舌の感触に、思わず息を止めてしまう。
「ぅ…ふぅん…はぁっっ!」
口付けの合間に少し離された唇の隙間から、忘れていた息をした。
時折漏れる吐息と、くちゅ、ちゅ…と、真島が大吾の舌を捕らえる音だけが響く。
慣れない女物の靴なんか履いてるから、足にも力が入らない。
絡めた舌のせいか、酸欠のせいか判らないが、大吾は頭がぼうっとしてきたのを感じていた。
「…っん…ふ…」
「…っ…っはぁっ!ご馳走さん」
ふいに唇が離され、真島は大吾から離れる。
何が何だか判らない状態の大吾は、壁にもたれ掛かったまま放心していた。
「いやぁ〜、ゾンビに邪魔されてもうた時はどうしよか思うたんやけど、これてチャラやな」
「ま、真島さん!?何をっ…」
息苦しさにか目を潤ませた大吾が、唇に手を覆いながら真島に問う。
「…なぁ、大吾、アレやなぁ…人間、唇の感触っちゅうんは、女も男も関係無いもんやなぁ…」
「…あん!?アンタ正気かよ!?」
「ヒャッヒャッヒャ!何や、六代目らしくない口調やなぁ」
「うるせーよ!」
「まぁ、何にせよ、これで口止め料やな。今日はこれくらいで勘弁したるわ」
顔を真っ赤にさせて、怒りを抑えているともとれる表情の大吾をちらりと横目で見て、真島はニヤリと笑った。
せや、今日はこれくらいで勘弁したるわ…