駄文(長編)
□蕩ける夢
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蕩ける夢
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「ここに来るの、一年ぶりくらいですかね?」
去年よりも冷え込む外気に頬を紅く染めた飛鳥が、クルリと回りながら言う。
「せやなぁ、もうそんなん経つんか」
「ふふふ、あの時は真島さんが来れなかったけど、冴島さんと来れて良かったって思ってます」
不意に飛鳥の口から出てくるもう一人の恋人の名前を聞いて、少しだけ胸が痛んだら気ぃしたが、そんなんは端から判りきった事。
しかしその痛も、幸せそうに微笑む飛鳥を見ていると、胸に暖かいモノが込み上げて来て、気にならなくなった。
「雨が上がったから、このままお日様が出てきたら暖かくなるのかなぁ?」
吐く息も白く、小さな体が一瞬ブルッと震える。
「そない薄着しよるから寒いんやで?」
「むー!お洒落は我慢なんですよ〜だ!」
薄着で強がる飛鳥の姿を見ていると、何故か真冬でも素肌にジャケットのみのアイツの顔を思い出してしまい、思わず吹き出してしもうた。
「?何か可笑しいですか?」
「いや?自分あれやで?最近妙に兄弟と似てきた所あるで?」
「えっ!?本当ですか?嘘っ!やだっ!」
紅くなった頬に手を宛てて狼狽える彼女を見て、今度は愛しさから笑みが溢れた。
「ホレ、これ羽織っとき。風邪ひくで?」
俺は徐にモッズコートを脱いで彼女の肩に掛けると、飛鳥は驚いた顔でこちらを見上げてきよった。
「嫌だっ!これじゃあ冴島さんの方が薄着じゃないですか!」
「俺は慣れとるわ。北海道の寒さはこないなのとは比べモンにならへんで?」
「もう、暑い時は沖縄の暑さで慣れてるって言うくせに…」
彼女はそう言いながら、肩に掛けたコートを俺に差し出しながら
「これは、冴島さんが着てください!」
と、口を尖らせながら言った。
「は?せやかて…」
「いいから!着てください!」
半ば無理矢理に突っ返されたコートに袖を通して羽織ると、飛鳥はここぞとばかりに俺の懐へと潜り込んできよった。
「なっ…!何しよるっ!」
「へへへ、私はこうしてたら暖かいから大丈夫です」
「なんやこないな格好、アホみたい―」
「良いじゃないですか、たまにはバカップルみたいにくっつきたいんですってば」
「歩きづらいわ」
「魔法の国ですよ?魔法が私を冴島さんに引き寄せるんですよ」
神室町では並んで歩くことも憚る身だが、この国ではそんなんも気にしなくなる魔法がかけられるとでも言うんか…?
それでも、腕の中で無防備に甘える彼女を見ると、俺も観念してギュッとその体を抱き締めた。
「しゃーないな、今日は姫の言うことに従ったるわ」
全ては魔法のせい。夢の中ー
そう、己れに言い聞かせながら、夢のゲートを潜り抜けた。
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2016.11.3