駄文(長編)

□ S.M〜slave master〜番外編2
1ページ/10ページ

夜の蒼天堀もすごくにぎやかで、流石は歓楽街といった趣を感じる。
グランドを出てからすぐに見えて来たラーメン屋さんを横切ると、自然とお腹が空いていますと主張してきた。
「――!!」
「あ?何や飛鳥ちゃん腹減っとるんか?」
音は前を歩く真島さんにも聞こえてしまったらしく、恥ずかしくてお腹を押さえて立ち止まった。
「す・すみません…お店ではあまり食べないようにしてたので…」
「しゃーないなぁ…ん?」
話をする真島さんの胸の辺りから電子音が聞こえて来たかと思うと、真島さんは胸の辺りをまさぐって何かを取り出した。
あれは…スマホでも携帯でも無い…
使ったことはないけど、恐らくあれはポケベルというヤツだ。
それを手にとって目を凝らして文字を見つめると、再びポケットにそれをしまいこんだ。
「…ちいと歩くけど、飯でも食いに行くか?」
そう、一言言うと、さっき行こうとしていた方向とは別の道…大きな通りに歩みだした。
「え?ちょっと!待ってくださいよ真島さん!!」
慌てて真島さんが行く方向に歩みを合わせると、また少し後ろを付いて歩いた。

いつもなら、手を引いてくれて隣りを歩いてくれる真島さん…
でも今は、この後ろから付いて歩く距離が何だか心の距離を表しているように感じて、寂しさばかりが募る。

しばらく歩くと、「龍虎飯店」と看板に書かれているお店の前にたどり着き、そこの暖簾を躊躇いも無く潜った。
私も続いて、その暖簾を掻き分けて店内へと入った。

「いらっしゃいませ…あぁ、真島さ…おや、今日は珍しく客人をお連れで?」

厨房に居た男の人が、動かしていた手を止めてこちらを見る。

「せや、店の子なんやけど腹減っとるみたいやから、適当にフェイフウの飯食わしたってくれ」
「適当…ですか?」
「俺はロンファちゃんと野暮用や。しっかり飛鳥ちゃんの事、頼んだで?」

真島さんはそう言って勝手知ったるなんとやらのようで、奥に座っていた女の人の前に向かった。

遠目で見るだけだけど…ロンファさんと呼ばれたその女性は、歳は今の真島さんより上っぽかったけど、とても綺麗な人に見えた。

「真島さん、イラシャイ。今日はイイの入ったよ」

名前もそうだと思ってたけど、聴こえてくる言葉のイントネーションから、何処かの国の人なんだなって感じながら、二人の行動が気になって仕方が無かった。

「…飛鳥さん?で、宜しいですか?何かご注文は?」
「え?ふぁっ!はい!!」

あまりに二人を凝視しすぎていたせいか、フェイフウさんから声を掛けられて、思わず変な言葉を発してしまう。

「―ふっ、そんなに気になりますか?真島さんの事」
「えっ…あの、その…ロンファさんって、美人な方だなぁて思って…」

私が何気なく思ったことを口にすると、フェイフウさんは急に顔を赤らめた。

「―あれは、私の妻です」

照れながらそういうフェイフウさんを少し意識して見てみると、顔に付いた大きな傷跡も気になる所だったけど、少し渋めで落ち着いた雰囲気の顔立ちをしているのに気が付いて、思わず私も顔が赤くなった。

「そ、そうだったんですね!少し安心し…わっ!いいえ!なんでもありません…」

そうだった、私はこの時代真島さんのナニという存在では無い。
変に意識していると怪しく思われてしまうかもと、大きく頭を左右に振って否定する。

「そんなに否定しなくても。真島さんは、皆さんが憧れるに値する素敵な人物だと私も思ってますから」

心を見透かされたように思えてますます顔が赤くなった。

「そんなっ…だって真島さんとは…」
「―時間とか、距離とか、そんなものは人間の心に関係無いんですよ。出会ってすぐに尊敬の念を覚えたり、惹かれるというのは、ごくごくありふれた感情です。恥じる事は無いですよ」
本当は、出会ってすぐとかじゃないんだけど…
でも、この時代の真島さんは本当に色々な人に慕われていてすごい存在なんだろうなっていうのはひしひしと感じていた。
「私自身、彼と出会ってすぐにあの体からあふれ出る才能に惹かれた一人ですから」
「惹かれた…?フェイフウさんと真島さんの関係って…?」
私がそう問いただすと、フェイフウさんはハッとしたような表情を浮かべ、慌てて厨房の方に振り返ってしまった。

「…さあ、突っ立ってお話しているのも何ですから。希望が無ければ、適当にこちらでメニューを決めさせて頂きますが?」

そう言われ、私はこのお店に入って来てからまだ席にも座っていないことに気が付いて、慌てて目の前にカウンターに腰を下ろした。

「えっと…じゃあ、ラーメンと半炒飯を!!」

お腹が空いていたことも思い出して、思い切って沢山注文する。

「かしこまりました」

丁寧な口調でそう答えを返してくれると、早速中華鍋を振るって炒飯を作り始めてくれたようだ。
ネギが炒まる香りに包まれながら、ご馳走が出来上がるのをわくわくしながら待ちわびた。



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ