駄文(長編)

□S.M〜slave master〜番外編1
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いつものように、突然呼び出されたかと思ったら、いつもと違うホテルの一室に通された。
洒落たその空間は、いつもより目の前に居るその人をかっこよく映し出す。
少し部屋の奥に入るのを戸惑っていたら、先に部屋の奥に進んでいた真島さんがゆっくりと振り返った。

「いつもの部屋が空いとらんかったからこっちにしてみたんやけど…落ち着かんか?」
「い・いいえっ!そんな…私は何処でも…」

間接照明に映し出された大き目のベッドは、これからのことを想像するとやけに胸がドキドキしてきてしまう。

何度も、何度も繰り返してきたその行為。
でもそれは全然慣れる事がなく、むしろいつになってもドキドキしてしまう自分が恥ずかしかった。

「…なんや?緊張しとるんか?顔、紅いで?」
「えっ…嘘っ――ンッ!」

覗き込まれてそう言われたので、あわてて声のする方へ顔を向けると、隻眼の瞳が細められ私の顔を革手袋をした両手が包み込む。
そのまま引き寄せられて唇を合わせると、慣れた調子でヌルリと舌が滑り込んで来る。
知った煙草の味を舌で感じながら、されるがまま口内で暴れる舌の動きにいつしか自分の体から力が抜けてくるのを感じた。

「――っ、アカン、我慢でけへんわ、このまま今すぐ…」
「んっ…嫌ぁ…せめてシャワーを…」
「アホ、俺は飛鳥ちゃんと会う前に浴びて来たわ」
「えぇっ…!だって、私は…」
「構へん構へん」

耳元で囁かれ、そのまま唇は首筋へと落とされる。
少しだけ歯を立てて噛み付くように吸われると、背筋がゾクゾクとしてしまう。

「んぁっ…!真島さ…ん…」
「ヒヒヒ、美味しいで?飛鳥ちゃんの味が一段と濃ゆ〜く感じるわ」
「は・恥ずかしい事言わないで…!!」
「エエなぁ、そうやって恥ずかしがっとる飛鳥ちゃん見とると…エライ興奮するわ」

多少抵抗してみせたが、そんなものは無意味で、瞬く間に私の体はベッドへと沈められてしまった。


※※※※※※※※※※※

「――っ!」

静寂の中、隣りで眠る真島さんの微かなうめき声で目が覚めた。
最近は殆ど治まっていたと思った夜に起きる発作的な魘されに、今日は苛まれているみたいだった。
苦しそうに眉間に皴を寄せて、冷や汗を掻いている。

「ま・真島さ…」

魘される彼を起こそうと、名前を呼びながら手を伸ばした。
―が、揺り起こそうと伸ばした手は真島さんの手で掴まれ、きつく握られてしまった。
本人はまだ眠ったままのようだが、その掴まれた腕の痛みに、少しだけ私も顔を歪める。

「い・痛っ―」
痛みに堪えながら、腕を振りほどくことも出来ない私は、思い切ってそのまま自分の胸に真島さんの頭を抱え込む。
引いて駄目なら押してみる…そんな気持ちでした行為だったけど、思いの外、掴まれた腕の痛みが和らいで、どうやら握る手の力が少し緩んだようだった。
素肌を介して真島さんの温もりが伝わって来る。
汗を掻いた額がひんやりとしていたが、掴まれて居ない手で額にへばり付いた前髪をそっと掻き揚げる。
彼の耳に自分の心臓の音を聞かせるように押し付けると、いつしか荒くなっていた息が規則正しい寝息へと変貌した。
掴まれた腕も、多少赤く跡を残したが、ゆっくりと引き抜くと力なく真島さんの手はベッドへと落ちていく。

彼の苦しみが少しでも和らいだのなら…

私は安堵のため息を付くと、跳ね除けられていたシーツを真島さんと自分の体に掛け直して、そのまま再び目を閉じた。


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