駄文(長編)

□ S.M〜slave master〜18
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目の前で起きていることに、目を疑った。

覗くつもりなんて到底無かったし、道に停めた車を確認するため一度上がった屋上から再び自分の店の前を通った。ただそれだけの話だ。

たまにその扉を開け放ったままにするためのドアに挟む楔が、偶然秋山と真島がドアを開けて外へ出る時に挟まってしまったのだろう。
ほんの少しだけ中を伺えるくらいの隙間がドアにあるのを、秋山は見逃さなかった。
いくら恋人が許したとはいえ、目に見えて飛鳥に好意を寄せている男と二人きりにさせる状況に、なんだかもやもやした気持ちを持っていたのかもしれない。
飛鳥と二人きりで食事に行った事など棚に上げ―いや、逆にその行為が下心のあるものだったから、こんなに気になってしまったのかもしれない。

横切るだけも出来たかもしれない、その隙間を何気なく覗いてしまったのだった。

声は良く聞こえなかったが、二人が親密そうに何かを話してしるのが見える。
よく見ると、冴島は飛鳥の肩に手を回していた。
自分が知る冴島に、そのように大胆な行動が出来るなんて考えも出来なかったし、仮にも飛鳥は真島の恋人だ。
飛鳥も、特に嫌がる事は見受けられず、小首を傾げる冴島に対して自然な仕草で目の前にいる男にスルリと腕を回す。


―この光景は、以前に見覚えがあった。
それは、飛鳥と食事に行って、間違えて飛鳥が秋山の酒を飲んでしまい、酔いつぶれてしまった時の事。
恋人の真島の連絡先を知らなかった秋山は、その兄弟分である冴島に連絡をした。
しかし現れたのは、真島ではなく連絡を取った冴島の方であった。
あの時に冴島に揺り起こされた飛鳥は、自然に冴島の首元にスルリと腕を回したのだった。
そして冴島も、臆する事無くその行為を受け入れていたのだと思い当たった。


思案する秋山を他所に、飛鳥が何かを言って冴島に擦り寄ると、その頭を優しく冴島の手が撫でる。
それが合図だったかのように、飛鳥は顔を上げて目を瞑る。
そして冴島も、それに答えるようにゆっくりと飛鳥の顔に己の顔を近づけると、やがて二人の唇は重なった。

覗いてしまった罪悪感と、二人の秘密を知ってしまったという衝撃に、秋山の頭は混乱する。

いつからだ?何時から二人は…?

軽い目眩を覚えつつ、それでも中にいる二人に気が付かれないように、秋山は足音を殺して再び屋上へと続く階段を上った。



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