駄文(長編)

□箱の中の天使3
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仕事が終わらない真島さんに、ミレニアムタワーに呼び出され、車で南さんが迎えに来てくれた。
会社からちょっと離れた路地で落ち合ってから車に乗り込むと、いつものように神室町へと向かう。

乗車する前に、今日は助手席に乗っても良いですか?って南さんに何気なく聞いてみたら、驚いた顔でこっちを見ては頭を激しく横に振られてしまった。

「飛鳥さん!何言うてはるんですか!そないな場所に姐さん乗せたのバレたら、俺が親父にどやされてしまいますわ」
「え〜、でも後部座席って、何となく寂しい…」
「あきまへん!」
強く拒否られてしまったので、大人しく後部座席に乗り込んだ。

ただでさえ、真島さんがお迎えで寄越してくれる車は、いかにもって感じの黒塗りで、後部座席の乗り心地も悪くはない。
運転手の南さんと会話が出来ない距離ではないけど、何となく落ち着かないのは、私が送迎される人物としてまだ慣れていないからだろうか?

「…飛鳥さんかて、社会人なんですから、上座下座の話くらい御存知ですやろ?」
「助手席が下座なくらい知ってますよ…でもそれなら、恋人同士でドライブ行く時は、わざわざ下座に好きな子をのせる事になっちゃうじゃないですか…」

信号待ちで車が停車したので、何気なくバックミラーを見てみると、何故か鏡越しに南さんと目が合いドキッとした。
それは向こうも同じなようで、ギクッとするように肩を大きく震えさせた。

「せ・せやから飛鳥さんは親父の恋人なんですから、俺等みたいなのと並ぶなんて…」

しどろもどろになりながら、南さんはそう答えるけど、私は何だか意地でも横に座ってみたくなった。

「…それじゃあ、また私が『ミナミ』になったら、横に並んでお酒飲んでくれますか…?」
「はぁっ!?」

以前、色々とあって、キャバクラで働いて居たときの源氏名を出して、問いただしてみた。

「飛鳥さん…困らせんといて下さい…」
「私は南さんと仲良くしたいんですよ!もっと…そう!フレンドリーな感じで…」
「せやから立場をわきまえて下さいな…」
「南さんが打ち解けてくれるなら、私ミナミになります!ミナミの名前で南さんの横に居ます!」
「!?!?」
「あ…あれ?」

口に出してみてから、何だかとんでもない事を口走ったのではないかと我に帰った。

『ミナミになる』なんて、まるでプロポーズを受けたみたいじゃ…

「あわわわ!違うんですよ南さん!ミナミになるって言うのは、そんな意味じゃなくて!」
「わ・解っとりますから、ホンマに…その、お気持ちは有り難いんですが…」

最後の方は消え入るように言葉を濁す南さん…本当に困っているようだ。
再びバックミラーの中の南さんをそっと伺ってみると…
あれ、顔が…真っ赤…?

南さん、見た目はあれだから近より難いイメージがあったけど、真島さんが可愛がっているだけはあるのか、真っ直ぐで少し不器用な感じが見受けられる。

そんな意外性も含めて、もっと近寄りたいと思っていたんだけど、なかなか難しいのかな…?

「…ごめんなさい」

困らせてしまった事に対して、謝罪の言葉を述べると、車内は微妙な空気が流れてしまったけど、車はそんなことはお構い無しに神室町へと近づいて行った…





2016.5.13
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