駄文(長編)

□S.M〜slave master〜17
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薄汚い、公衆便所の奥の扉。

そのまた更に奥にあるドアを開けて、地下へと潜る。

そこはかつて、一時自分が配下としていた地下施設が広がっていた。

今は元の持ち主に管理が戻ったが、ここの不夜城的な雰囲気は、随分と自身に似合っていると感じて、時々足を踏み入れてしまう。

しかし今日の目的は、闘技場でもギャンブルでもない。

目指すは、突き当たりのあの男の元…




「おう、来たか」

恰幅の良い体を椅子に納めた花屋が、葉巻をくゆらせながら真島に向き合った。

「例の情報が入った言うから、来てやったで?」

少し気だるそうに足を擦りながら歩く真島は、首を傾げながら花屋の近くへと歩み寄る。

熱帯魚が泳ぐ巨大な水槽は、先ほど通った紅い道とは違い静かな雰囲気を醸し出していた。

「ああ、お前さん達が気になってる海外から流れて来た連中の事だったよな」

花屋は懐から写真を取り出し、机の上に無造作に並べる。

そこには、神室町の町並みと共に、数名のスーツ姿の男達が写し出されていた。

「数日前から、コイツらが神室町で不審な動きしてやがる。まぁ何処の国から来た奴等なのかは今調べてる最中だが…」

「どっから来たかなんて関係あらへん」

真島は写真を掴みチラリと目線を配ると、口の両端をニンマリと上げて笑う。

「この神室町で悪さするようなら…俺が纏めてぶっ飛ばしたるだけや」

新たに海外組織らしい連中が神室町に出入りしだしたというのを知ったのは随分最近の事だった。

最近ニュースでも取り上げられている、発砲事件や襲撃事件…

東城会とは関係無いと言っても、組織を運営していくのには金が必要となってくる。

そこで幾度となく狙われるのは、神室町という特殊な町並みの性とでも言おうか。

金を生み出すこの町を、手中にしようとする輩を排除するのは、武闘派の真島組の仕事の1つだ。

「まぁ、お前さん所の組連中なら大丈夫だと思うが…用心はしときな」

「あぁ?俺が負ける訳あらへんやろ?」

「お前さんはな。…コイツらは、例えカタギの女子供だったとしても、手段選ばねぇって事だよ」

花屋の言葉に、真島はピクリと眉をひそめた。

カタギの女子供と言うのは、飛鳥の事を指していると言うのは明白であった。

「…ノゾキ主義やのう…何処まで覗かれとるのか、ちいと興味あるわ」

「フン、先にあの子の行動を見せろと言ったのはお前さんの方だろ?まぁ、あんだけこの町でいちゃつかれてたら、嫌でも目に入ってきちまうさ」

そう言われ、以前飛鳥が神室町で合コンに行くと言った最に、行動を監視させてくれと頼んだことを思い出した。

花屋は葉巻を揉み消すと、椅子の背もたれに深く体を預けた。

「あの子を守りたいんなら、もう1人の恋人みてぇに慎重に動いてやるこったな」

もう1人の恋人…恐らく冴島の事だろう。そこまで情報を掴まれているとは、流石と言うか何と言おうか…

「…ホンマにエエ趣味しとるわ」

「お前さん達程じゃねぇさ。1人の女を共有するなんて、悪趣味も良い所だ」

「しゃーないんや、そんだけ惚れてもうたんや…俺も、兄弟もな?」

おかしい事くらい、ずっと前から判ってる。

それでも、愛しいと思う気持ちは変わらず、傍に置きたいと願ってしまう。

彼女もまた、自分達を必要としてくれているのなら、多少の道徳観なんて二の次だ。

「しかしまぁ、用心に越したことは無いわなぁ。花屋、おおきにやで」

机に並べられた写真をかき集め、真島は自分の懐にしまい込み、花屋の部屋を後にしようと踵を返した。

「暫く、お嬢ちゃんと目立つ行動は避けるこったな。先日も、何人かで小競り合いが起こってる」

「言われへんでもそのつもりや」

ピリピリとした空気が、自分の回りにまとわりついているのを感じ、真島は苦虫を噛み殺したような顔で、賽の河原を後にした。
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