駄文(長編)
□恋の代償
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「ま・真島さん…何やってるんですか?」
「エエから、ホレ、ちゃんと笑ってや?」
UFOキャッチャーでGETした自撮り棒を試したくなったらしい真島さんは、私の肩を抱いて写メを撮り出した。
「…おしゃ、折角やからこれを…」
そして、今撮りたてホヤホヤの写メを、誰かに向かって送信したらしい。
「真島さん、誰にメール送ってるんですか?」
「あ?今北海道に出張行っとる冴島にやで?」
「何でわざわざ冴島さんに…」
「ヒヒヒ、俺らは仲良うやっとるから、お前はのんびりと北海道行っとれやって言うためや」
「何なんですかそれは…」
それは真島さんの嫌がらせなのか、それとも、寂しく無いように励ましなのか、良くわからないことをする人だ。
「…なぁ、飛鳥ちゃん、もしもやで、もしもの話なんやけど、俺が浮気したらお前どないする?」
「へ?う・浮気ですか?」
唐突に、そんな事を聞かれて声が上ずった。
「せや。他の女と仲良うなってしもたら、どないする?」
「う〜ん、それは、ちょっと…」
私は、体育座りで膝を抱え込んでうなだれた。
「…あのですね、やっぱりちょっと嫌だなぁって、思うんですけどね…私には、それを責める権利が、無いって言うか、何て言うか…」
「あ?何でやねん」
「え?判りませんか?…私、真島さんと冴島さん、2人と恋人なんですよ?」
2人とも、この事に関しては承諾済みな話ではあるけど、普通に考えたら、どちらからしたって、浮気しているのも同然だ。
「だからですね…例えば、私と同じくらいに、好きになっちゃった女の人が出来てしまってでもですね…それを責めるのは、お角違いじゃないですか?」
「ほぉ、飛鳥ちゃんにしては、えらくマトモな答えしとるやないけ」
「な!何ですか私にしてはって…」
こんな贅沢なくらい幸せな待遇をして貰っているのだから、例え真島さんが私と同じように、他の誰かを好きになっても、私は何も責める事はできない。
「…でも、やっぱり知っちゃったら、ちょっと悲しいかも知れないんで、するなら完璧に、隠して下さいね?」
「…ホンマにお前はオモロイ女やなぁ」
そう言って、私の頭をくしゃっと撫でて、真島さんはニヤリと笑った。
「器がデカイんか、それとも只の…いや、まぁエエか…」
「む!只の、只の何ですか!?」
真島さんが言いかけた言葉がすごく気にかかるけど、今はこれ以上は聞かないで、ぐっと堪える。
…もし、真島さんが私以外の誰かを好きになってしまったら…
心の中は、グルグルとモヤモヤが回っていたけど、それは仕方ない事だと自分を無理矢理納得させる。
突然、ふと、私は今まで2人に、こんな思いをさせてきてしまったのでは?と、不安になった。
自分の愚かさに、気がつかされたように思えて、ポロッと一粒、涙が溢れた。
「なっ…何やねん飛鳥ちゃん、いきなり…」
「っ…いやっ、だって真島さん達、もしかしたら、今の私と同じ気持ち、持ってるんじゃないかって思ったら…申し訳無くて」
「あ?何言っとるんや、冴島はともかく、俺は…」
真島さんは、少し考えるような仕草をしたかと思ったら、体育座りをしている私を抱え込むようにして包み込んだ。
「…まぁ、せやな、全く無いって言うたら、嘘になってしまうかもしれへんな…」
包み込むその手の優しさが、今の私にはすごく身に染みる。
いつも甘えていただけの私だけど、これからは真島さん達が感じている切なさも、この身で受け止めなければと思った。
「…ごめんなさい、でも、すごく幸せです」
「あやまらんでええ。切ない気持ち感じとるよりも、飛鳥ちゃんの事、大事に思うとる気持ちのがデカイんやで?」
そう言って、真島さんは私の額にキスをする。
ジワリと真島さんの、柔らかい唇の暖かい感触が、今はすごく愛しい。
この上ない幸せと、それに伴う罪の意識が、私の心に甘く蕩けていった。
2015.12.29