FE 蒼炎/暁 二次

□領主のお仕事
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 良く晴れた早朝である。ヒヤッとした風が肌に心地よい。

「今日は、久しぶりにお願いね。」

 緑竜の首を優しく抱くと、心地よげに咽を鳴らす。

「ちょっと重たいけどね。」

竜の背に、二人分の鞍を載せる。一見、恐ろしげな容貌をしているが、今はされるがままに寝そべっている。

(この子に乗るのも、久しぶり。)

舘の者は、ジルが飛竜に乗る事に、あまり良い顔をしない。

 多分、怖いのだろう。

 以前は人里離れた家の林で、広々と自由に空を駆けていたのに。この子にも不自由をさせていることを、申し訳ないと思う。

 (こんなに可愛いのに。)

 あくまで彼女の主観である。

「くれぐれも、気を付けて。お客様に怪我でもあったら、ただ事ではすみませんよ!」

本日100回目の小言を聞き流し、客人達を待つ。ジルには絶対的な自信がある。

日が大分高くなり、正午に近くなった頃、やっと査察長達がやってきた。

「これは申し訳ない、仕事が少し長引きましてな。」

後ろで部下の一人が欠伸をしているが、まあ良い。来ないかなと思っていたから、ましな方だ。

「それでは早速。」

 あまり会話したいとは思わない。ジルは早速飛竜に跨った。

「う、で、では。」

ガマガエルに似た査察長は、飛竜の姿に一瞬怯み、やや及び腰に、ジルの後ろに続いた。

「しっかり持ってください。いきますよ。」

ガマの両腕が、細い腰をギュッと抱き絞める。気持ち悪さを高揚感で打ち消し、ジルは緩やかに離陸を開始した。

「う、うわわわっ、うわぁー!」
「さ、査察長殿ぉー!」

下界の喧騒をよそに、ジルは爽快感に浸る。地上を離れると、まるでそこにある憂いの全てから開放された気になる。

しばらくして、後ろで怯える男の存在を思い出す。

「あ、そういえば、大丈夫ですかあ。」

「……。」

「安全飛行しますから、安心してくださいね。」

ジルに必死でしがみつく男。これまで一角の男ばかりに囲まれていたせいか、情けない気がしなくもないが、寧ろこれが普通なのかもしれない。

「あっちが町で、丁度この下が農村。あの辺りの川がいつも氾濫して…。」

随分慣れてきたかと思う頃、ジルは説明を始めた。

「…ほう。」

「町は先の戦から、殆ど復興してないんです。田舎で、目立った産業もないから…。」
「ふーん。」

 心を尽くして説明を続けるも、今一つ真剣味を感じられない。

(この人、聞いてるのかな…)

それでも懸命に説明を続ける。粗方を終えて、屋敷に向かってUターンし始めた時、男の様子に異変を感じた。呼吸が荒く、苦し気だ。

「あの、気分悪くないですか…、きゃっ!」

振り返ろうとしたその時だった。ガマの両手が、胴から、胸部に上がり、乳房を掴んだ、ように感じた。思わずジルは手綱をはなし、その手を払って乳房を庇う。

「ひ、ぎぃやああああ!!」

バランスを崩したガマはスローモーションのように落下する。ジルは慌てて手綱を取り直し、片手を伸ばす。察知した竜は的確な落下点に移動する。間一髪、ジルの手が、逆さまになった片足を捉えた。右肩にグッと重みが加わる。浮力を利用し、ようやっと男の身体を引き上げた。

「ひ、ひいい…。」

 ガクガク震え、奇妙な声で喘ぐ男ーー。安堵の溜め息が漏れた。
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