FE 蒼炎/暁 二次
□領主のお仕事
2ページ/9ページ
良く晴れた早朝である。ヒヤッとした風が肌に心地よい。
「今日は、久しぶりにお願いね。」
緑竜の首を優しく抱くと、心地よげに咽を鳴らす。
「ちょっと重たいけどね。」
竜の背に、二人分の鞍を載せる。一見、恐ろしげな容貌をしているが、今はされるがままに寝そべっている。
(この子に乗るのも、久しぶり。)
舘の者は、ジルが飛竜に乗る事に、あまり良い顔をしない。
多分、怖いのだろう。
以前は人里離れた家の林で、広々と自由に空を駆けていたのに。この子にも不自由をさせていることを、申し訳ないと思う。
(こんなに可愛いのに。)
あくまで彼女の主観である。
「くれぐれも、気を付けて。お客様に怪我でもあったら、ただ事ではすみませんよ!」
本日100回目の小言を聞き流し、客人達を待つ。ジルには絶対的な自信がある。
日が大分高くなり、正午に近くなった頃、やっと査察長達がやってきた。
「これは申し訳ない、仕事が少し長引きましてな。」
後ろで部下の一人が欠伸をしているが、まあ良い。来ないかなと思っていたから、ましな方だ。
「それでは早速。」
あまり会話したいとは思わない。ジルは早速飛竜に跨った。
「う、で、では。」
ガマガエルに似た査察長は、飛竜の姿に一瞬怯み、やや及び腰に、ジルの後ろに続いた。
「しっかり持ってください。いきますよ。」
ガマの両腕が、細い腰をギュッと抱き絞める。気持ち悪さを高揚感で打ち消し、ジルは緩やかに離陸を開始した。
「う、うわわわっ、うわぁー!」
「さ、査察長殿ぉー!」
下界の喧騒をよそに、ジルは爽快感に浸る。地上を離れると、まるでそこにある憂いの全てから開放された気になる。
しばらくして、後ろで怯える男の存在を思い出す。
「あ、そういえば、大丈夫ですかあ。」
「……。」
「安全飛行しますから、安心してくださいね。」
ジルに必死でしがみつく男。これまで一角の男ばかりに囲まれていたせいか、情けない気がしなくもないが、寧ろこれが普通なのかもしれない。
「あっちが町で、丁度この下が農村。あの辺りの川がいつも氾濫して…。」
随分慣れてきたかと思う頃、ジルは説明を始めた。
「…ほう。」
「町は先の戦から、殆ど復興してないんです。田舎で、目立った産業もないから…。」
「ふーん。」
心を尽くして説明を続けるも、今一つ真剣味を感じられない。
(この人、聞いてるのかな…)
それでも懸命に説明を続ける。粗方を終えて、屋敷に向かってUターンし始めた時、男の様子に異変を感じた。呼吸が荒く、苦し気だ。
「あの、気分悪くないですか…、きゃっ!」
振り返ろうとしたその時だった。ガマの両手が、胴から、胸部に上がり、乳房を掴んだ、ように感じた。思わずジルは手綱をはなし、その手を払って乳房を庇う。
「ひ、ぎぃやああああ!!」
バランスを崩したガマはスローモーションのように落下する。ジルは慌てて手綱を取り直し、片手を伸ばす。察知した竜は的確な落下点に移動する。間一髪、ジルの手が、逆さまになった片足を捉えた。右肩にグッと重みが加わる。浮力を利用し、ようやっと男の身体を引き上げた。
「ひ、ひいい…。」
ガクガク震え、奇妙な声で喘ぐ男ーー。安堵の溜め息が漏れた。