FE 蒼炎/暁 二次

□あの日の約束
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あの頃_____。
俺にとって最も華々しく、燦然と耀いていた時代だ。訓練兵から竜騎手として抜擢され、よほど水が合ったのだろう。3年程たった頃には実戦も幾度も経験した、自他共に認める隊のエースだった。
直近の戦では、勲章まで受け、まあ、いわば、調子に乗っていた。
一方のシグルーンは聖天馬騎兵団に入隊したばかり、美人の公爵家令嬢の入隊は、俺達若い兵隊の羨望の的だった。
認めよう。確かにあの頃、調子にのっていた。いや、乗りすぎていた。馬鹿で、頭の悪いガキだったのだ。
仲間達に囃し立てられるままに、声をかけ、少し仲良くなったのを機に、これまた冗談の延長で、半ばからかい気味に愛を伝えた。
周囲が驚いたことは、シグルーンがそれを断らなかったことで、当人の俺はもっと驚いていた。
ともかく、そんな風にいい加減に始まった付き合いだったが、彼女の性質なのだろう、俺達はことのほか、普通の恋人同士と変わらない、穏やかな幸福を満喫していた。
自分で言うのもアレだが、俺達は同期生の羨望の眼差しの中心にあったと思う。

そんな矢先の、あの逃亡劇だったのだ。
「あの日の約束、覚えてる?」
「うん。まあ…。」
談笑の途中、ふと彼女が真剣な眼差しを向ける。
シグルーンはベッドから立ち上がり、ハールから背を向けて窓辺を見遣った。
「あの日、私達は訓練を引けた後、会うことになってた。」
「……。」
「朝まで一緒に過ごす約束。いつもの場所で。」
「貴方から言ったの。何事もなく、いつも通りにね。」
「ずっと待ったわ。一晩中。お陰で次の日まで全く知らなかったわ。騒動のことも、それにあなたが加わっていたことも、私達の隊がその夜の追跡に加わっていたことも。」
内容とは裏腹に、シグルーンの口調は、至って静かだ。ハールは彼女の意図を図りかね、なおも黙りこむ。
振り返ったシグルーンは、にっこり笑み、再びベッド脇に腰掛けた。
「心配しないで、もう怒ってないわ。」
その言葉が怒りの証ではないのか。そういえば昔から怒ると恐ろしく、そしてしつこかった。ぞくりと背筋が凍る。
「要は小娘だったのよね。カムフラージュに利用されたのは、悔しいわ。」
「そういう訳じゃ…!。」
突然、唇を塞がれた。
柔らかな感触が、下唇に残った。
「わかっているわ。貴方は苦しい立場だった。誰にも言えなかった。上官のためには。」
「あんたと闘いたくはなかった。」
傷つけるのも、傷つけられるのも嫌だった。例え別れを告げることができなかったとしても。
「…そう。嬉しいわ。」
素っ気なく返す。
「でも、そんなことはもうどうでもいいの。」
両腕を枕がわりにくんで、ベッドボードに頭を預けているハールに再びにじり寄る。
「あの時の約束、今、ここで果たしてほしいの。」
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