FE 蒼炎/暁 二次

□初夜の憂鬱
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(まじかよ。)
天蓋付きのキング・サイズのベッドには今、純白のレースの夜着に身を包んだ彼女が、羞恥にうち震え、不安げにこちらを見ている。
(いや、ないって、ないない。)
頬をつねる。痛い。夢を見ているわけではないらしい。
設えられた、これまた純白のガウンを羽織ったマカロフは、ドアの前から一歩も動けないでいた。
ーーほぼ無意識のうちであった。朝起きたら、控室なる場所に連れ去られて装飾を施され、結婚式なるものに参加させられ、あろうことか壇上の新郎席に座っていた。招待者席にいた妹にヘルプの視線で訴えたが、ぷいっと横を向かれてしまった。
 (自分がないんだよなぁ、オレって。)
「…どうなさいましたの?そちらは寒いですわ。…こちらへ、お出でになって。」
ぽっと頬を赤らめる。
「ふ、ふぁい…そう、ですね。」
 正直なところ、ガッチガチである。何せ、右足と右手が同時に作動する。先送りしてきたこの瞬間が、とうとう来てしまったのだ。

「あの、2、3質問をよろしいでしょうか?」
「ハイ、何なりと。」
 可能な限りベッドの端に腰掛けたマカロフは、恐る恐る尋ねた。
「あの、今から何するか、分かってる?」
 ステラは耳までを真っ赤に染め、口ごもった。いたたまれない雰囲気である。
「は、ハイ…キチンと勉強を。予習は怠りませんわ。」
「勉強!?予習!?何それ、どうやんの?」
「そんな…マカロフ様の前で申し上げられませんわ♥」
…想像できない。貴族の伝統とは、恐ろしいものだ。
「ま、いいや。じゃあ2つ目。えっと…あの人、誰?」
 マカロフは、部屋の隅を指差した。
「ああ、あの方は…。」
「私の事は、居ないものと思って下さいませ、ご主人様。」
 何故か部屋の隅で椅子に腰掛けているババアが、無機質な抑揚のない声で割り込んだ。ステラは曖昧に微笑んだ。
「ハイ。彼女は…その、当家のシキタリで、し、…初夜の無事を見届けるお役目の方ですわ。」
「はいぃ?‼」
 冗談じゃない、他人に見られて悦ぶ趣味はない。とんでもない内容を、その口から言わないで欲しい。
 「あの、他人の面前ってのはちょっと…。オレ、結構デリケートだから、その、勃つものもタたないってゆうか。い、いや、君に言っても分かんないだろうけどっ。」
「?」
 首を傾げる。
 だが、ここは譲れない。
「頼むよ、そもそも、君は平気なの?」
「分かりました…。あなた様がお困りならば、致し方ありません。困った時、相談出来て安心かと思ったんですが…、お願い、席を外して頂戴。」
 相談するな。
「し、しかしお嬢様の身にもしもの事があったら…。」
 この男、何をしでかすか分かったものではない、と言う風だ。信用ないよな、オレ。気持ちはよく分かるが。それだけじゃないだろう。貴族ってのは、古来からヤらしい奴が多かったに違いない。 
「大丈夫、マカロフ様はお優しい立派な方。さ、出て行って。」
 ババアは相当の抵抗を試みたが、最後は折れたようだった。やれやれ。

「さて、と。」
 前提条件はひとまずクリアした。問題はここから、である。どこから手をつけたら良いものか。戻ってきた彼女は、何の躊躇もなくオレのすぐ隣に座ってしまった。…スゴくいい匂いがする。
「えっと、取り敢えず灯り、消そうか。」
 恥ずかしいから。
「ハイ。」
 フッと燭台の灯火が消える。しかし、華美な装飾を施した窓枠から、光々とした月明かりが、却って彼女を美しく照らし出した。
 (ええい。)
 マカロフは雑念を祓うべく、首を振る。ペースを掴めない。いつものおちゃらけたノリが、どうもここでは通用しそうにない。
 
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