FE 蒼炎/暁 二次
□OLD DAYS
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結婚が、死がふたりを分かつまでの「変わらぬ愛」の誓いだとしたら。
「早くに伴侶を亡くした場合、どうなるんですかね?」
「そりゃあ、次に行くだけさ。」
彼女のドライな恋人は、きっぱりと答えた。
「でも。」
彼女は食い下がる。
…自分の周囲にはそうでない例がある、竜鱗族のイナにしろ、実はサギ族だったセフェランにしろ、ずっと1人を想って、長すぎる生を生きているではないか、と。
「ラグズは文化が違うんだろうよ。」
そっけなく返される。
「でもでも。」
「何だよ、イヤにつっかかるな。」
父親は、どうであったのか。彼女は、母親を知らない。母の痕跡は、父の書斎で見た小さな肖像画のみである。幼心に残るのは、儚げに微笑む美しい一枚の姿絵だけーー。
父と母がどういう経緯で伴侶となり、どういう経緯で自分が誕生したのかを。ただ物心ついた時から母は世を去っており、その後、父はずっと独りだったと記憶している。
これをどう説明するのか。
恋人は、少し困った顔で笑った。
「…あの人、奥手だったからなあ…。」
では、何故自分は生まれたのだ。
「そんなの決まってんだろ。え?知りたいって?困ったな…。」
ーー 20年は前に遡る。お前の母親という人を、俺は殆ど知らない。
ただあの人は、中央から追われるように任されたこの領地を、真摯に統治しようと、四苦八苦していた。俺達が弱かったとは決して思わない。ただ、大義なき侵攻に膿み、士気は極めて低かった。
そんな頃、俺達がここに来て間もない頃に、彼女は俺達の前に現れた。
美人で身体が弱かった。
お前?ああ、全然似てない。
イタッ、何すんだよ。
来たばっかりの時なんて、よそ者が前の領主を追い出した訳だから、領民の評判は最悪で、その上、増税に次ぐ増税で、それを取り立てに行くもんだから、もう蛇蠍の如く、って感じよ。
俺達は呑気なもんだったけど、あの人はくそ真面目だから、めっちゃ悩んだと思うよ。
…何だよ、しんみりするな、昔の事さ。
ある時、村の端の、一番貧乏な家まで税の取り立てに行ったんだ。姉妹二人だけで住んでいた。
姉の方がベッドで寝ていた。そこに踏み込んでよ、金払えって…、何で怒るんだよ、それが仕事だったから仕方ないさ。
払えなきゃ、身体で払えってことで、…いや、そうじゃなくて。
出役って意味だそ?元気そうな妹の方を引っ張っていこうとした。そしたら、病人の癖に姉の方が怒ってさ、平手打ちだよ。その辺はお前に似てたな。そう、彼女がお前の母親。
妹より自分を連れていけって言うから、仕方なく連れていった。働けねえだろてめえは、って小突きながら。
帰って
“こいつどうします?”
って、あの人に聞いた。
ああ、その時だ、多分。二人が初めて合ったのは。
俺達、そこでも叱られた。なにをやってるんだって。そして、謝るんだ、すまなかったって、彼女に。大の男が何度も何度も、繰り返し。
腹もたたなかった、ただ、情けないやら悔しいやらで。
その後、あの人の計らいで、彼女は屋敷で女中として働き始めたんだ。よく働いてた初めて来た時と同じように、熱ばっか出してたけど。
…馴れ初めは知らない。気が付いたら、いつの間にかそうなってた。
ただ、変なこと聞くなって、思ったことはある。『食事に誘ったら、変に思うか』とか、『誕生日に、何を渡せばよいか』とか。知るかっての、俺、そんなことしたことないし。終いには、自分で考えなさいって、そう言ったよ。
…面白くなかったのかも知れない。尊敬する上司が、小娘相手に狼狽する姿はよ。
え?好きだったのかって?違う、そういうんじゃないって。
兎角、そんなこんなで、公言した時には腹にお前が居たわけ。…しかし、どうやって口説いたんだろ?いや、ホント真面目で、盛り場にも寄り付かなかったくらいで…え?俺?俺はまあ…普通だよ。
真っ赤になって、無茶苦茶照れて言うもんだから、可笑しくて。こっちが恥ずかしくなるよな、全く。
仲良かったよ、凄く。幸せそうだったな、奥さんが熱だしたら、徹夜で看病してた。急用で起こしに行ったら、ベッドサイドで疲れて寝てて…起きてた奥さん、俺なんかに泣いて謝るんだ。『申し訳ない、迷惑かけてる』って。窶れて、髪もバサバサだったけど、ああ、綺麗な人なんだなだって、敵わないって思ったよ。それだけだったな、まともに会話したのは。
あ、お前には全然似てないから。