FE 蒼炎/暁 二次

□SPA
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「良かったあ…綺麗だったなあ、エリンシア様。」
言葉に反して、ジルは深い溜め息を吐く。
初秋の夜である。冴えた夜空を風切れば、通常は寒すぎるくらいだが、酔いの残る身体には心地よかった。
昼間の式典の余韻は、今もしっかりとジルの脳裏に焼き付いている。
美しく着飾ったエリンシア女王が、讃える民衆に向かって優雅に手を振る。それに寄り添うように肩を抱く、正装の若きジョフレ将軍。壮麗な一つの絵画であった。
見上げた彼等を、つい自分達に置き換え、同時にそれを諦めた瞬間でもあった。
(ないわ。)
吐いた溜め息が白い。
「ハールさん、何処行っちゃったんだろ?ね?」
話し掛けられた竜は、迷惑そうに嘶く。
確かに来るときは一緒だったはずなのに、ついた瞬間、彼は姿を消していた。いつもの事ではあるが、一緒に見ることができたなら、彼の気持ちも少しは動いたのではないか、などと、つい夢想してしまったものだ。

山頂に、天然で暖かいお湯が沸く泉、“温泉”というものがあるという。
「デインにはないからな。何でも、美肌効果があるらしいぜ。ジルなら行けるんじゃね?」
祝宴の最中、サザがわざわざ教えてくれた。
明白な冷やかしを含んだ言葉に、ウルサイと蹴りを入れようとした結果、あっさり避けられ、余計に腹がたったのを覚えている。
…だが、真に悔しいことは、それを実行に移した今の自分がいることである。明らかに見透かされているのだ。
今夜、同部屋のミストやレテが熟睡したのを確認して、手早く準備を整え、ジルは夜空へ飛んだ。
その時、鼻で笑ったレテには、興味を持った事すら知られたくなかった。ミストなら一緒に行ってくれたかもしれないが、今夜は酔いが回ってキャッキャと笑った後、パッタリと倒れるように眠ってしまった。(カワイイなあ。)
そういう行動を自然にとる彼女が、少し羨ましい。

山頂は、乳白色の靄が立ち込める幻想の世界であった。不思議と暖かい。
竜はその主を降ろすと、さっさと補食に出掛けてしまった。口笛で呼ぶと帰ってくるので心配はない。
お湯が自然に沸くという現象は、知らない者には不思議でならない。火を焚く必要がないのならばひどく便利である、所帯染みた感心をする。
(本当にお湯なんだ。)
そっと手を浸すと、暖かい。少し熱めだが、十分に身体を浸せる温度だ。
ふうっ、深呼吸をひとつ。これまでの疲労が、溶けていく。白いもやに霞む星空は、泣ける程に美しい。
手を伸ばし、腕から先をじっと見つめる。サザがワザワザ言いにに来た理由が分かる。

この夏、北部で起こった土砂災害の為、ジルは現場に出ずっぱりだった。それなりに懸命に指揮を執り、復旧作業も上出来で、それなりに満足して帰ったのが、およそ2週ほど前のことだった。しかし先日、鏡を前に愕然とした。
疲労で肌はカサカサに荒れ、日焼けの跡はもろに浮き出ている自分。3日前、久々に会ったハールが、見るなり苦笑した理由がやっと分かった。
皮膚が生えかわったりは、しないのだろうか。
(キレイになーれ。キレイになーれ。)
頭の中でバカみたいな呪文を唱えながら、腕を擦ってみる。変わった様子はない。愚かな自分にガックリと肩を落とす。
大体サザの奴も、ミカヤ様みたいな人と比べるから性質が悪い。あんな綺麗で小柄で細い、なのにバストのボリュームはしっかりあってスタイルも抜群の、そう、調度あんな感じの…ん?
誰か…来た。
まさか、こんな場所、こんな時間に、ひと?にしても、キレイな…。
「あら?もしかして…ジル、さん?」
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