FE 蒼炎/暁 二次

□マリッジ・ブルー
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婚姻が“死が二人を別つまで”の契約であるとしたらーー。
「オレは彼女と契約してしまっても、いいのだろうか?」
「はあ…」
騎馬訓練の休憩中である。ケビンはのどかに草を喰む愛馬の傍らに腰掛け、鍛え上げたばかりの肉体の疲労を癒していたところだった。ついうっかり、トボトボと歩いてきたマカロフに、声をかけてしまったのが運の尽きであった。ここぞとばかりに横に腰掛けた彼は、あまりに唐突に話し始めたのだ。
「よく分かんないすけど、そういうのって普通、女の方の悩みなんじゃないすか。」
「うん、でも彼女はピンピンしてるよ。オレ全然知らないんだけど、皆で結婚式の準備とかで盛り上っちゃってんだよね。」
「良いじゃないスか、俺からしたら、寧ろ自慢にしか聞こえないっすよ。」
「そお?」
ちょっと嬉しそうだ。しかし、かれはすぐまたがっくり肩を落とす。
「でもさ、…考えてみなよ?自分だと思って。どう考えても、場違いじゃん?」
「…そりゃ…まあ、ね。」
礼を失するかと黙ってはいるが、彼は伯爵家にあって、きっと身の置場に窮していることだろう。
「俺も…どっちかっていうと、庶民的な方が…。」
「ああ、マーシャは庶民的だよね
。」
「い、いや別に、妹さんの事を指した訳では…!」
しまった、つい失礼なことを口走ってしまった。ケビンは慌てて首を振る。
「ねえ、ところでさあ。」
(聞いてない!)
マカロフは今、自分の事が精一杯であるらしい。
「オレ、あの子とセックスなんて、できるかなあ…。」
「はぁ?」
ここは夕暮れの酒場ではない、神聖な訓練場である。それを、場をわきまえない単語、真っ昼間から何を言い出すつもりだ。しかし。
「あの、お兄さん?…ってことは、まだやってないんすか、その…」
「オレ、君の兄さんじゃないけど?」
「あ、いや、マカロフさん。」
そこは聞こえたのか。
「あったり前じゃん、…それとも君達はもう…って訳?」
「い?いやっ、決してそういう訳では…!」
足下に墓穴を掘っていくケビン。
「ま、いいけどね。別に。マーシャの奴、結構やるなあ…。」
「すすす、済みませんっ!若気の至り、勢いでつい…。」
「いやいや、いいんだってホント、君みたいな人でホント良かったよ。あいつなんて、オレのせいで危うく娼館に売られちゃいそうだったこともある訳で…イタッ。」
「あ、ああ、あんた、何やらかしてんだ!彼女に何かあったらっ!」
柄の方とはいえ、斧でどつかれた頭は相当痛い。しかしマカロフは立て直す。見かけによらず、タフなのだ。
「まあまあ落ち着いて。いや、ちょっと負けが込んでたときにね…、まあ、終わった事だし。それはともかく。」
まだ鼻息の粗いケビンの肩を軽く叩き、どうどうと声をかける。
「…オレ、経験ないとは言わないよ?だけど、大体、酒場で意気投合盛した勢いで、とか、賭場で盛り上がった勢いで、とか、有り金スってショボくれてたら、店のママさんに同情された、とか。分かる?行きずりなわけよ、長く続いた事なんか、無いわけよ。…そんなんで、あんな無垢な子…やっていいの?死ぬまでずっと付き合うの?」
「…なんか、やっぱり羨ましいっす。」
落ち着きを取り戻したケビンは、彼を思いやってみる。
確かに彼は、駄目な奴だと思う、なのに憎めない。考えてみると、特段目立つ訳でもないのに、酒場では彼がいるだけで盛り上がるし、ダメだダメだと小突かれながらも、いつも輪の中心に女の子にいる。
恐らく、自分でも他人でも、「駄目」を赦し、どんなものも呑込んでしまう鷹揚さがある。よく言えば懐が深い、悪く言えば、いい加減とでも言うのか。マーシャだって、人買いに拐われそうになっても、兄の心配ばかりをしている。(俺は許さんが。)
だが、そんな彼に惹かれたステラさんは。一遍の曇りもないかに見えた深窓の令嬢は、彼に一体何を引き受けて貰いたかったのか。
「お兄さんは、自分の事ばっか考えてるから、そうなるんす。」
「え?」
横に身体を向け、はっとして顔を上げたマカロフに向かい合う。
「1つでいいから、彼女の事、考えてあげて下さい。きっと、気ぃ使ってます。」
貴方がちゃんと馴染めるように、反対されて辛い思いをさせないように、恐らく、彼からそれだけの恩恵を受けたから。
「し、初夜とか、そういうのは、何とかなるもんです。」
自分達の場合…妙な妄想が去来し、思わず逆上せ上がる。いかん、鼻血が…。
「そうかなあ。」
「そ、そうっす!彼女、好きなんでしょ、大事なのは心!」
「わ、分かった。やってみるよ、よーし、なんか燃えてきた!」
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