FE 蒼炎/暁 二次

□妬心
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紅を引く。鏡の中の自分に微笑みかける。
「終わりました?支度。」
若い侍女がドアをノックし、顔を出した。ジルが隠した情けない顔を、背後から覗きこむ。
「うわあ、酷い。」
慌てて鏡台に駆け寄った彼女は、さっさと化粧を直し始める。
「はい、出来ました。」
ジルは改めて鏡を覗き、驚いた。鏡の中の自分が、今度は美しく微笑んだ。
「…すごい。魔法みたい。」
「普通ですよ、女の子ですもん。あなた、斧とか槍とか、そんなんばっかり弄ってるからいけないんです。これからは、こういった機会も増えるんですからね。それに…。」
「あ、あれ!」
彼女の小言を遮り、バルコニーに続く窓辺を指差した。
ガタガタと窓枠が鳴り、開いた片方の窓から風が舞い込む。点のように見えた影は次第に大きく、黒竜の姿となった。侍女が後退ると供に、男が降りたつ。
「ハールさん。」
ジルが嬉しげに駆け寄った。
「もう、あんた方、たまには玄関口から出入りしたらどうなんです?」
バルコニーに留まる黒竜に、恐る恐る窓を閉める。
「どうしたんですか、帰るのは
3週間後って言ってたのに。」
「うん、仕事が1つキャンセルにされて…お前こそ、凄い格好じゃないか。」
「やだ、綺麗だなんて♥」
「いや、仮装大会?」
「違いますよ、失礼な。」
「それはですね、」
ジルを押し退け、二人の間に割り込む。
「お呼ばれですよ。向こう隣の領主館が主催の、饗宴に。」
「…どうしても、行かなきゃダメかな。あ、急にお腹が…ね、キャンセルできない?」
元々、気乗りしていない招待であった上、ましてや2週間ぶりの彼の帰還である。
目下、留守の多い彼との時間をいかにして得るかが、ジルの最優先事項であった。
「ダメに決まってるじゃないですか。」
侍女は冷ややかに答えた。
「やっぱり?」
「やっぱりです。ウチが貧乏と知って、衣裳まで送って下さったんですよ?それに…今回は、マラドのフリーダ様もいらっしゃるとかで、喜んでたじゃないですか。」
項垂れたジルは、知らぬ顔でソファに寝ころぶハールをちらと見る。心なしか浮き立つ彼女は、嬉しげにジルに耳打ちする。
「向こうのご子息は評判の美男子と聞きますよぉ、楽しんでいらっしゃれば良いじゃないですか。そうそう、あの方は、私どもにお任せになって。」
近頃、女中間で彼の人気が急上昇しているのは、馴染んでくれて嬉しい反面、ジルの心配事の1つである。
「…余計不安よ。言っとくけど彼は私の…!」
掴み合いを始めた二人を意に介さず、部屋の長椅子に寝転んでいたハールがゆるりと起き上がる。
「今夜か、そのパーティ。まさか、空からいく気じゃないよな。」
「え、行きますよ?速いですもん。ねえ?」
「はい。」
顔を見合わせた二人に、ハールは頭を抱えた。
「その服装じゃ、下から丸見え。領内の奴らに大評判だぜ。人気取りならまあいいけど。」
「あ。」
深いスリットの入った深紅のドレスは先方からの贈物。竜に跨がると、太腿まで露になるだろう。
「ど、どうするんです、時間はギリギリですよ。」
「そうだ!やはりここはキャンセル…。」
「だからダメですって!!もー、バカバカ!」
再び掴み合いを始めた二人が疲れてきた隙をみて、ハールは口を出した。
「送って行ってやろうか?」
「はい?」
異口同音で、手を止め、彼を見る。
「仕事穴あいたし。片道500、往復900でどうだ?横向きなら行けるだろ。」
「えーっ、お金取るんですか?ケチ。」
「当たり前だ、仕事だからな。」
「…高い。馬車なら700だわ。」
負けてない。特に金銭面においては、しっかり者の侍女である。
「ちぇっ、800。いいか、ジル。」
「は、はい。お願いします。」
嬉しい。彼と居られる時間が…出来たではないか。侍女が小さく舌打ちする。
彼と一線を越えてからもう2年が経とうとしているにも関わらず、彼女は未だに夢見る乙女、であった。彼の飛竜に乗せて貰うのは、子供の頃以来ではなかったか。
ジルはすっかり有頂天であった。
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