FE 蒼炎/暁 二次

□悪戯 2
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早朝、余りの寒さで目を覚ます。
山際が白見始めたばかり、隣で男が安らかな寝息を立てている。
(やだ、裸じゃない。)
寒い筈だ、季節は冬である。いつもはきちんと寝間着を着直す習慣だが、昨夜はそうしなかったらしい。ベッドの下に散らかっている寝間着を取ろうと半身を起こしかけ、再び布団に潜り込んだ。
(さ、寒い。)
男との供寝が常態化して、二度目の冬を迎えている。彼の仕事柄、いつも一緒、と言うわけにいかない。短くて3日、最長で1月間隔での逢瀬となる。昨夜は確か7日、一週間ぶりだったと思う。
呑気な寝顔を、しげしげと見つめ、溜め息を吐く。
対等ではないと思う。年齢の問題だけではない。気持ちにいつも温度差がある。彼の一挙一動に常に戸惑う自分に対し、努めて冷静な彼に、認めたくはないが、すっかり手玉に取られている。
荷物運びの仕事もそう。私は早く逢いたくて堪らないのに、気分屋の彼は、『ちょっとついでに』などと寄り道ばかりしている。
ハッキリ言って、気が気でない。噂に聞く元カノの存在も、気にはなる。まあ、噂通りの人ではないと思っているが、当然元カノくらいは居るだろう。
ペシっ。額の辺りを軽く叩いてみる。…何で私、この人の事、好きなんだろう。だらしないし、意地悪いし、私の事なんか、放ったらかし。好きだって言われたこともない。
そう言えば。事に及ぶ時だって、彼はいつも着衣よね?素裸って見たことがない。今だって裸だし、いつも気付けばぽいぽいと剥がされている。
「…。」
ジルは手をかざし、ハールの寝息を確かめる。掛布団をちょっぴりはだけさせ、胸の上下を確認する。
「よし。」
ちょっと拝見。そっと彼の着衣を寛げる。無数の細かい傷跡と、左脇にとりわけ深いもの。彼が自分にそうするように、人指し指で撫でてみる。
竜騎士である自分達が投入されるのはいつも荒っぽい激戦区、特に彼は先陣を切って突撃する。
うんと小さな頃は、その強さに憧れた。彼の部隊に入って、頼もしさに惹かれた。けれど、何時までも認めて貰えず、任務に就かせて貰えないことが不満だったっけ。____でも、今なら分かる。彼らの任務『半獣狩り』、彼は、むごい仕事から、私を遠ざけていた。戦場彼はいつも第一功労者、一人占めは狡いなんて、噂してた。そうやっていつだってたった一人で、苦辛を自分の腹に収めた。
「言ってくれなきゃ、判らないじゃないですか…。」
胸に頬をよせる。唇で傷痕をなぞる。
部隊の中でも、気が粗い連中の中で無事でいられたのは、それなりに目配りしてくれていたのだろう。
戦地に出てからは『援護しろ』って前に入って、逸る私をいつも下げた。だから私に大きな傷は一つもない。

身体を重ねる。起きてしまうといけないので、体重を掛けないように片手を付く。暖かい鼓動を直に感じる。キスしたら、お伽噺のように、彼は目覚めるのだろうか。

父を亡くして、一緒に暮らした。住む場所を用意して、お墓もつくってくれた。喧嘩ばっかりしてたけど、時々ふっと見せる、寂しい、優しい、何と言ったら良いか、慈しむような表情に、いつしかぎゅうっと胸が締め付けられるようになった。

…やっぱりそう、ここまでやっといて、好きになるなって言う方がおかしい。確信犯だ。もやもやと腹立たしさが蘇り、悪戯心を掻き立てる。
そおっと唇を重ねる。起きない。いつも寝ているだけあって、本来眠る時間は完全に熟睡しているらしい。
(起こしても起きないもんね、この人。)
「ふっふっふ。覚悟しなさい。」
自分がされるように、たどたどしく首筋をなぞる。太い筋、続く鎖骨。
「私の事、好きって言って。でないと…」
今だけ、大胆になれる。年齢のギャップに負けたくはないが、やはり普段は遠慮があるし、「真面目」な自分を崩せない。対等ではない。ドキドキしながら、乳頭に舌で触れてみる。
「あ。」
うーん、と唸って、あちら側に寝返ってしまった。

「ハールさんが…好き。」
背中に寄り添う。暖かい。耳朶を前歯で甘く噛む。泣きそう私、こんなに好き。もっと一緒に、なんて縛らないから、好きって言えなんて言わないから。
もっと教えて、あなたのことを。苦しさも、嬉しさも、傷の数も、生きてきた年数分を。そうしたら、ちょっとはしてくれた事、返せるから。一方的じゃない、対等な存在として、必要とされたいの。
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