FE 蒼炎/暁 二次

□悪戯
1ページ/1ページ

「葡萄、ですか。」
「そう、葡萄。」
配達帰りのハールが、デインの田舎、ダルレカ領主の館を訪れるのは、さほど珍しいことではない。
理由は簡単、館の主であるジルとデキているからである。あの大戦の後、紆余曲折を経て、はれて恋人同士と呼んで差し障りのない状況となっている。

「得意先に、農家があってよ。初物の出来が良かったから、お前さんにだって。」
彼が袋から出したそれは、見たこともないような黒い大粒。
「品種改良とかやって、最近は首都にも卸してる、俺はフレッシュ特別便。館にも売り込みたいってさ。」
「何かずいぶん色々なとこ、行ってますね。」
ややもすると彼は自分の知らない領内や外の話を、沢山知っている。自由の身は羨ましく、また不安の源でもある。
「まあ、ね。ほら、食えよ。」
そう言って彼はその一粒を房からもぎ、ジルの前に差し出した。
「ありがとうございます。」
ジルはそれを受け取るべく、右手を開く。
「?ハールさん?」
くれようとしたんじゃないんですか?彼はそれを寄越さない。
ジルをじっと見つめた後、真顔で囁く。
「口開けろ、あーんって。」
「はいぃ?」
また、何を言い出すのだ。
「またあ、変な事言わないでくださいよ、はい。」
彼の手からそれを奪おうと試みるも、ぎゅうと離さない。
「もうっ、分かりました!分かりましたから。」
一体、何を考えているのだ。呆れたジルは頬杖をつき、瞳を閉じて口を開ける。
(間抜けな顔、してるだろうなあ。)
「もっと開けろ、入んねえ。」
「な、何でっ…ん?」
…ちょっと考えてみる。口をもっと開ける、ちょっと変な顔。そこに、件の黒くて丸い大粒を彼が押し込む。ちょっと指とか入るかもしれない、食べる、皮出す。それって何か…。
急速に顔が火照り始める、そう、これはいつもの、ちょっとした意地悪。嫌だ、悟られたくない。変な事、考えていると。
ジルはそれらを打ち消すべく、思い切り口を開けた。そう、放りこむ形か、若しくは入った瞬間に歯で挟んで持っていく形にするのだ。やらしい事なんか、全然考えてません。瞳を開けて、挑む。さあ、来い。
ハールが少し、苦笑いした。わざとゆっくり、黒く光る果実を唇に近づける。はい、来た!
「ん、ぐっ…。んんっ。」
唇が果実に触れた瞬間、彼はぐっと指ごとそれを口内の舌の上奥に押し入れた。口内に溢れた甘酸っぱい果汁と、潰れた果実、それにまだそれを離していない指が舌に絡まる。
何とか皮ごと出そうと、舌で押し戻そうとする。自然、唇は指を吸う。何かとてつもなくイヤらしい事をしている気になった…。背筋がぞくっとする。ちょっといつまでやらせてるんですか。
ようやく食し終わり、ごっくんと葡萄を飲み込んだジルは、涙目で息を調えながら、恨めしげにハールを睨む。対するハールが口の端で笑った。…負けた。
「旨かった?」
「…ええ、ホントに。」
美味しゅうございました。

(おわり)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ