FE 蒼炎/暁 二次

□あの日の約束2
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いかん。テーブルの下の絨毯が余りに心地良くて、ついつい眠ってしまったようだ。猫の癖に夜に居眠りとは…いやはや、情けない。
しんと鎮まったVIPルーム____。寝惚け眼の衛兵をやり過ごし、出窓の隙間をスルリと抜ける。
月の冴えた夜、すっかり温かくなった身体にひやりと夜気が心地よい。辺りはすっかり鎮まって、ついさっきまでの喧騒が嘘のようだ。

…おや?まだ人影が見える。男が大理石のベンチに寝転んで…ん?あれは多しか、赤毛ちゃんの想い人。そこに女性が現れた。何やら意味深な空気、ちょっと様子を見てみよう。

「あら?宴はもう終わった筈だけど。…風邪ひくわよ?」
「部屋が煩くてね、まだ騒いでる。」
「同室は確か…ああ、クリミアの。」
ぽんと手を打つ。
「そういう親衛隊長殿は、後片付けか。ご苦労なことで。」
欠伸を噛み殺し、ハールは伸びをした。
「あら、ちょっと待ちなさいよ。」
去りかけた腕を捕らえ、シグルーンはハールをベンチに押し戻す。
「…んだよ。何か用か?」
「まあ、随分ね。」
シグルーンは苦笑する。
「折角の再会なのに…元気そうね?」
「ああ、復興景気で、荷物屋も繁盛、もう少しサボりたいけどな。」
いつも通りのぶっきらぼうな返事。
「そう…、まだ、あの子と一緒に?」
「…いや。今は1人だ。」
「ふうん、一人立ちしたのね、シハラム様のお嬢様は。」
「うん、まあな。」
髪を掻き上げる。
「つまりもう悠々自適ってこと…じゃあ、私との約束、果たせるわね?」
ハールを覗き込むように、笑いかける。ハールはぐっと息を呑んだ。
_____シグルーンとの、4年前からの約束。当事、恩師を殺されて復讐に燃えた自分。師との約束だった、生存した部下達の比護を彼女に託した。替わりに、生きていれば、必ず彼女の元へ____しかし、それが守られることはなかった。
「……宮仕えはしたくない。」
シグルーンが片眉を上げた。
「あら、別に荷運びだって構わないわよ?兵士でなくっても。」
ハールは居心地悪そうに視線を反らした。
「…わざと言ってるだろ?」
「何を?」
「だから、…まあいいや。」
彼女はさも可笑しげに、くっくと笑った。彼はばつが悪げに横を向く。
「噂は聞いてるわ。…ねえ、あの子と、寝た?」
「…。言う必要、あるのかよ。」
「あるわ、私にはいくつも貸しがあるもの。違う?」
「…ちっ。…まあ、楽しくやってるさ、ママゴトみたいでな。」
口の端に笑みを浮かべる。
「あら可哀想、酷い言い種。…でも、何だか意外、貴方のそんな表情、見たことない。」
____4年前、アシュナードの戦死を聞き、しばらく後に彼の生存を人から聞かされた。シグルーンは心から安じ、そして待った。しかし、彼が帝国に戻ることはなく、その消息は様として知れなかった。街で偶然再会を果たした時、
歯切れ悪げにようやく言ったものだ。
『隊長の遺児と暮らしている。』
面倒見てやらなけりゃ、と。

「貴方に全然似合わない。頑固で、情熱家。生真面目でおせっかい。シハラム様によく似た子。」
「違いない。」
「苦手だと思ってたんだけど?そういうタイプは。しかも、しがらみだらけで、娘程も年が離れてる、昔の貴方なら、絶対敬遠した筈ね。」
「…、違いない。」
ハールは苦笑いする。
「あの子は特別?シハラム様の娘だから?…それとも、押しきられた?」
「…何のための尋問だよ。俺に未練でもあるのか?だったら歓迎するぜ?」
「そうね、じゃあ、お願いしようかしら?」
「…冗談だよ。」
「本気よ。あの子と私、どっちがいい?」
上目遣いに男を見つめる。蠱惑的に潤んだ瞳は、嫌が応でも男を魅了する。彼女が男の頬に手を添える。男が彼女の瞳を見つめる。唇と唇が今___。

おお、いかん、いかんぞ、赤毛ちゃん、可哀想じゃないか。いくら相手が妖艶な美女でも…いや、まあ男なら誰でも仕方ないか。でもやっぱ駄目!

「ニャン。」
「きゃっ。」
「おっと。」
小生、二人の間に割り込んで、美女の膝にちょこんと座る。
ハールは、ほっと息を吐く。
「あんまし、からかうなよ。喚いたり怒ったり、後々大変なんだ。」
「それだけ?」
「…あー、分かったよ、もう。大事なんだよ、悪いかよ。」
シグルーンは優雅に微笑む。
餓鬼じゃないんだから。彼女が自分に心を残していないことくらい分かっている。
「あーあ。振られちゃった。まあ、いいわ、次の約束は貴方達が別れた時でいいわ。」
「ああ、そうしてくれ。」
「じゃあ、ね。こっちにも配達来るんでしょ。たまには顔を出しなさいよ。」
「やなこった。弄られるのは、御免だね。」
ハールはベンチを立つと、後ろに手を振り、闇に消えた。
シグルーンは膝上の猫を抱き上げた。
「ズルいわよねえ、猫ちゃん。」
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