FE 蒼炎/暁 二次

□月の夜の夢想
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ふうっ。

美酒に火照った顔を確かめるように手をやり、エリンシアは吐息を洩らす。

国賓の為に特別に設えられたゲスト・ルームをこっそりと抜け出した彼女は、薄暗い廻廊を小走りに歩む。

『傭兵団の方々は園庭の中程』
親衛隊長の言葉を反復し、階段を下る。

やがて、視界に園庭内の大きな焔が映る。一際大きな人の輪。

 いた!

 相変わらず、その中心部に胡座をかき、仲間達に囲まれて談笑している。

 エリンシアは先を急いだ。

「アイク様、お久しぶりです。」

「エリンシア!?驚いたな。」

 隣りに座っていたヨファが、気を効かして席を開けた。ドレスの裾を気づかいながら、エリンシアはそこにフワリと腰掛ける。

 「おい、汚れるぞ。」

 アイクは自らのマントを拡げ、そこに座るよう示唆する。

「バーカ、大して変わんねえだろ?」

 ボーレの揶揄に、仲間達がどっと笑う。相変わらずの襤褸のマント。

「うるせえな。」

 少し頬を膨らましたアイクの様子に、エリンシアもクスリと微笑する。

 懐かしいーー。彼らと行動を共にした日々の記憶。己の命運を、誰かに頼らざるを得なかった一番苦しい時代、しかし鮮烈な追憶。

「やっと会えました、再三お願いしてるのに、顔を出して下さらないから。」

「ああ、悪い、意外に依頼が多くてな、おめでとうくらい、言いに行くべきだったのに。」

 屈託なく笑うアイクの姿に、エリンシアの心は翳りを帯びる。

「…少し、歩きませんか?」

そっと立ち上がったエリンシアの後に、黙ったままアイクが続いた。

 喧騒の中、誰も二人が抜けたのに気付く様子はない。

「ごめんなさい、アイク様は人気者で中々ゆっくり出来る機会がないものだから。」

園庭を抜け、湖畔の散歩道を訥々と歩く。湖面に映える月光がぼんやりと周囲を照らす。

「なに、元気そうでよかった。相変わらずのバカばっかりだけどな。」

 しなやかに伸びをする。暫らく、懐かしい思い出を語りあった後、エリンシアは唐突に尋ねた。

「…ねえ、アイク様は、これから先、どうなさるおつもり?やはり傭兵団を続けて?」

「…ああ、妹のこととか…片付いたら、旅にでも出ようと思ってる。団は、そうだな、シノンにでも任すかな。」

「…そう。」

 沈んだ声で、エリンシアは俯き、気をとり直すように、再び顔を上げた。

「それで、いつ帰るの?1年?それとも…3年とか?」

「……。」

「まさか、帰らない?」

「分からない。…でも、恐らくは。」

 そんな…。エリンシアの衝撃をよそに、アイクは淡々と語る。

「みんなまっさらになっちまった。これからは創り出していく時代だ。俺は、壊すことしか出来ないからな。」

「そんなこと、ない…。」

「もう大丈夫、後はエリンシアや、神使や、皆が上手くやるさ、俺は、もう必要ない…エリンシア?」

エリンシアの頬が、月光にキラキラと照らされた。次々にそれは、まるで宝石のように零れて落ちた。

「いや、嫌よ、私には、まだ貴方が必要だわ。」

「エリンシア?」

 アイクは慌ててエリンシアの頬をマントの裾で拭う。そして、更に慌ててそれを引っ込めた。

「す、すまん。却って汚れて…、ジョフレがいるじゃないか。ルキノも、王宮騎士団の連中も、ユリシーズだって、マーシャだっている。これ以上は贅沢ってもんだ、エリンシア。」

 エリンシアは止まらない。

「…ほら、涙だって拭けない、綺麗なハンカチすら持ってない。あんたに俺は、相応しくない。」

「そんなこと…私は好き。いくら繕ってもボロボロのマントが、地べたに座って話すのが、女王って呼ばない、…貴方が。」

「あんたが王衣を纏った時に、俺達の糸は、…切れたんだ。」

あの時、悟った。少女に抱いた淡い想いは、努めて消さなければいけないのだと。

「王衣を?」

行けと言ったのは、貴方ではなかったか。

「…では、王衣を纏わねば、よろしいのね?」
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