FE 蒼炎/暁 二次
□OLD DAYS
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それから程なくしてお前が生まれて、直ぐに奥さん、亡くなった。
泣いたかって?
それが、メチャメチャ泣くと思ったのに、涙ひとつ見せなかったんだよな。ああ、そんなもんだった?って思ってたけど、今は…分かる。
予め、二人の間で覚悟が出来てたんだ。奥さんのいなくなった後どうするのか、ちゃんと決めてたんだな。
その点は、戦場でも同じかも知れない。生死が前提にあるから、一々嘆いたりはしないだろ。運がなかったな、って。え?そんなことない?
…まあ、ここからはお前も知っているとおりの、子煩悩な親父になった訳だ。
おしまい。
確かに、勧められたりはしてたけど、再婚もしなかったし、特定の人もいた様子じゃなかったな。
若い時は知らんけど、帝国でも軍人一筋の人だったし…1度きりの恋を、貫いてたんだろうな、まあ、そういう奇特な人もいるってことか。
あれ?どうした?黙りこんで。
人に喋らせといてもう寝たか?
「…父と母に悪くて。…私が生まれたから、早く別れないといけなかったんでしょうか…。たった1年ちょっとで。」
「何だよ起きてたのか…。そんな訳ないだろ、喜んでたよ、二人とも。お前にはさ、こっちが腹立つくらい甘かったし。」
ーー寂しくは、なかったのだろう。精一杯だったのだ。恐らくは彼女との約束だった残された幼子の育成と、部下の統制と領民の統治。
現に彼女との婚姻は、領民との融和をもたらしたし、死別後の己への厳しさは、部下の統制を乱さなかった。中央からの無茶な命令も、やり過ごす政治力が必要だった。
全てを順調にまわすのは、並大抵ではなかったのだ。
しんみりとした空気を変えるべく、話題の方向転換を図る。
「しかし、何で急にそんなこと聞くわけ?」
「べ、別に。…最近、結婚するって人が多いから。…どんな感じかなぁ〜、なんて。」
すぐ強情を張るよな。ならば応酬せねばなるまい。
「あっそ。しかし、重たいよな。シガラミに囚われて身動き取れないってのは。先に逝かれた方は、二人分の荷物を抱えて行きなゃならない。俺なら、御免だな。」
「…そうですか。」
悲しげに変わった。すかさずフォローに回る。
「それでも、幸せなんじゃねえの?本人は。荷物の中には…きっと大事な物も入ってるんだろうからさ、例えば。」
言葉を切る。
「例えば?」
「…あの人にとってのお前、とか。そういうのも、良いのかもな。」
「そうですか?」
顔を輝かせる。非常に分かりやすい。
「さ、寝よ寝よ。明日も早いんだ。」
彼女に背を向け、毛布にくるまった。
「…狡いんだから。」
分かっている癖に…。彼女も彼に背を向け、毛布の端を引っ張って奪う。
「寒っ…、取るなよ。」
奪い返す、と見せて彼女をぎゅっと抱き竦めた。暖かい身体が、固く強張る。微かに震える耳元に囁く。
「…そういうの、したいって訳。」
背を向けたまま、首を横に降り続ける。
「…いいぜ、しても。何も変えなくて良いなら、さ。」
彼女の動きが止まった。返事はない。あれ?見当違いの、自惚れだったか。
しかし…消え入るようなか細い声が、彼の耳に伝わった。
「…ほんとに?」
「俺でもよかったら。」
再び、返事はない。やはり自惚れてたか。所在なく解こうとした腕に、そっと手が重なった。やがて、後ろ向きのままに小さく頷いた。ホッと一息をついたのもつかの間、見ると細身の肩が震えている。
「笑うなよ、おい!」
顔を見せろ、と毛布ごと回転させる。
「…何で泣くんだよ。」
そんなに嫌なのか。そうではない、彼女は大仰に首を振る。
「…絶対に逃げると、思ってたから。」
「信用ないな。」
人差し指で、涙を拭う。
「気軽に行こう、何も死ぬまでいなくたって、合わなきゃ別れたって、構わないんだ。」
「そんなことしませんよ!」
ムキになるところは、嫌いじゃない。わざと予防線を張ったのだから。
「ま、ある意味ラッキーだよな、自然体でいくと、絶対俺、先に逝けるもんな。」
自分の脆弱な神経では、これ以上誰かを喪うことに、耐えられそうにない。奇特な人々と同じくらい強く、自分はなれそうもない。
あーあ、今夜はいやに多弁になる。彼女がいつになく無口なせいかもしれない。
「…私は、誓えますよ。」
唐突に彼女は呟いた。誓えます、死によって別たれることのない、永遠の愛を。そこまで言われれば、致仕方無い。
「そうかい。じゃあ…ついでに俺も。」
誓おうか、何に対してでもない、女神でもなく、国家でもなく、ましてや他人でもない、二人だけの永遠の誓いをーー。
(おわり)