FE 蒼炎/暁 二次
□往昔
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冬である。王国の中でも北方に位置するこの地方の冬は、寒い。とにかく寒い。
特に、朝からこんな吹雪の日には、飛竜だって動こうとはしないんである。
そう、つまりこんな日は…ベッドから出ることはせず、惰眠を貪るに限る。
ひゅうっと窓に降りかかる雪風の音がますます眠気を誘う。
そもそも、こんな日にわざわざ配達を頼みにくる奴もおるまい。いや、例え来たとしても、居留守を使う。
……。
微睡みの中、ひとつ寝返りを打つ。窓にうっすらと明かりが射し込んできた。…眩しい。
カーテン、勝手に閉まらねえかな。
ドンドン。扉を叩く音。
…まさかの客か。ダメダメ。今日は休業日ですよっ、と。
ガチャガチャ。ノブを回す音。
…随分乱暴な奴だな、でも残念、抜かりなく、鍵をかけている。
音が止む。
…やっと諦めたか。
ガサガサと雪をかき分ける、音。まさか…。勝手口に!?何て奴だ、ちょっと待て。…まさか。
ガチャ。
「こんにちわ〜、ハールさん?ああっ、まだ寝てる‼」
やっぱりこいつか。
「ハールさん、ハールさん。ほらもう朝ですよ!早く起きて、はぁやぁく!」
…煩い。ものすげえ煩い。人が頑張って狸寝入りを決め込んでいるのに、どうしても俺の眠りを邪魔したいと見える。
「……。」
だがしかし、俺は負けない。
「もうっ、早く起きなさい‼」
ぶわっと冷たい風を起こし、白いシーツが宙に舞う。
「うわっ、寒っ!…何するんだ、テメエは!」
「きゃっ、…ハールさんこそ、服着て寝てくださいよぅっ!」
紅潮した顔を隠すように手で覆い、勝手な事を叫んでいる。…昨夜、着替えが面倒でそのまま寝たのを思い出す。言っておくが全裸ではない。
「今着るから、待ってろ。」
…数分後、仕切り直す。
その間に火を入れてくれたらしい。安眠妨害は許せんが、マメな奴がいると助かるものだ。
「それで?何の用だ。…そもそもお前、仕事中だろ、領主サマがサボってちゃ、俺達良民に大そうな悪影響が…。」
ジルはキョトンとこちらを見やった。
「あれ?ハールさん、忘れちゃったんですか?」
…え?何を?
「命日ですよ、お父上の。お墓参りに来たんです!」
…忘れてた。
「ああ、そうそう、そうだったな、じゃあ、行ってこい。」
…そして帰れ。ん?
「はい!じゃあ、行きましょう。」
にこやかに笑い、ジルは今一度ベッドに戻ろうとした俺の袖を引いた。
「まさか、俺もかよ。」
「あっったり前じゃないですか。さ、早く早く!」
…イヤだ、寒い。