FE 蒼炎/暁 二次

□Tea time
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 雪が舞い始める季節である。
朝靄の情景は粉砂糖を粉したように白くキラキラと輝き、冴えざえとした空気は肌に心地よい。

…というか、寒い。要するに寒い。

 ぶるっと身体を震わせて、顔を洗った後の赤く浮腫んだ手に息を吐いた。白い息が空に溶けていく。

 (遅いなあ。)

 彼は、寒さで凍え死んではいないだろうか。竜は冬になると、動きが鈍くなる。戻りが予定より遅いのは、想定内ではあるが。

 悴んだ手が治るのを待って、桶に水を汲む。薄く張った氷が割れて一緒くたに入った。

 と、川の向こうから、村の少年がこちらへやって来る姿が見えた。
 
「こんちわ。」

 少年はジルの近くまで来るとハンチングをとって、にっと笑った。

「はい、今週と来週の分。」

 そういって、少年はミルクを3本、机に置いた。
 暖炉に火が入り、湯を沸かし始めた部屋は暖かい空気で満たされていた。彼は、馴れた様子でソファで寛ぐ。
 
 ほどなく、ジルが代金とホットココアを運んできた。

「ありがてえ。」

 彼はカップを大事そうに両手で持ち、真っ赤な頬を膨らませ、ふーっと息を吹き掛けた。嗜好品である。貧しい農家の子どもの口には、そうそう入るものではない。

「まだ帰ってないんだな、あの人。」 

「昨日帰る予定だったんだけどね。」

「良かった。」

 思わず吹き出した。彼に限らず、子どもの目に、同居人は怖く映るらしい。

「あれで、優しいんだよ?」

 偉そうにフォローする。特別の親しさを表したようで、気分がいい。実際、あまり優しくされた記憶はないのだが。
 と、彼はコップから口を離して唐突に尋ねた。

「…姉ちゃん達さ、できてんの?」 

「は?」

「母ちゃん達が喋ってた、親子でもないし兄妹でもなさそう…ドウセイしてんのか、ってさ。」

 彼がさらりと言ってのけた言葉の意味を何度も脳内で反復してみる。
 
 ドウセイ…ドウセイ…あの、同棲?理解と共に、頬が熱くなる。

「バ、…馬鹿。子供の癖に、変なこと言わないで!」

「ははは、だよな〜。だからそんな訳ないって俺、母ちゃんに言ってやったんだ。姉ちゃん、そんな感じじゃねえもん?」

「…何それ、どういう意味?」

「だってさ、言葉だけで、反応しすぎ。そんなんじゃ、キスだってまだだろ?あんな(恐ろしげな)人と…な訳ねえって。な?」

 彼はまたカップの端に口を付けた。

「キスぅ!?そ、そんな…まさかあんた、…したこと…。」

「あっったり前だろ。母ちゃんとじゃないぜ。隣のマリーちゃんだろ、それから…。」

 指折りを始めた彼に、ジルは焦りを覚える。こんな小さな年下に、負ける訳にはいかない。
 チラリと窓の外を見遣る。大概彼は、自分にとって最悪な瞬間に現れる。彼が戻る気配はない、よし。

「私だって…それくらいは、したことあるよ。」

「え、嘘。」

「本当、っていうか、寧ろ挨拶程度?話題にもならないわ。」

 懐疑の目から、視線を反らすべく、ジルはカップに口をつける。
 
「挨拶のやつじゃないぞっ。もっとこう、濃厚なやつだぞ。」

 ムキになる。…濃厚って、どんなだ?まあいいや。

「あっったり前よ!もう、なんかこう、激しいやつよ。」

「は、激しい?」
  
 彼が目を見張った。…勝った。

「…そ、それ、どうやるの?教えて?」

「は?」
 
 そんなもの、知らない。彼はコップを下ろし、両手を温めながら俯いた。

「…ごめん。さっきの、嘘なんだ。…彼女が、下手っていうから俺…恥ずかしくて友達には聞けないし。ね、からかったの、謝るからさ、教えてよ。お願い!」

 謝るなああ‼今更後には、引けないではないか。そういう作戦なのか。…想像力を働かせるより他はない。

「そうね…。」
  
 …ただいま。
 …お帰りなさい。遅かったですね。
 …会いたかった。
 …私も…。あ、駄目ですよ、扉、開いてる…。
 …構わないさ。

「…ねえ…、何やってるの?早く教えてよ。」

 息を荒げ、一人苦悶するジルを疑わしそうに眺める少年。

 駄目。恥ずかしすぎるし、その後の想像がまるでつかない。

「やっぱり本当は知らないんでしょ。…大体、デキてないのにキスするのって、どういう関係よ。」

「お、大人の…関係よ。」

「何それ。じゃ、さ。付き合ってないなら、俺とやってよ、実地訓練。」 

「嫌よ!好きな人としか、しないもん。」

「さっきと言うこと違う!『大人の関係』でやるんだろ?」

「うう…。ウルサイ!子どもは大人じゃないから駄目!」

「はんっ、詭弁だね。」

ーー仕事から帰ってきたが、さっきから、ガキどもは何をはしゃいでいるのだろう。…どうでもいいが、すっげえ入りづらい。

(おわり)

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