『僕と私の恋愛事情』
□私と彼の距離
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忍術学園に転入して数ヶ月が経った。
少しずつだけれど、学園にも慣れてきた。
授業についていけるか心配だったけれど、内容の進み具合は風魔とそれほど変わらなかったから、戸惑ったのは最初だけだった。
くのたまの同級生の子たちとも仲良くなれたし、先輩たちは綺麗で素敵で、後輩の子たちは可愛い。
忍たまの人たちも、喜三太君が四年は組の先輩方を紹介してくれて、今では向こうから話しかけてくださるようになった。そこからろ組の先輩、五、六年の先輩方、後輩と、少しずつ交流の輪が広がった。
交流関係の面で一番驚いたのは、意外にも左吉さんこと、任暁先輩と仲良くなったことだ。
転入から数日の間は、やっぱり初日の件でお互い気まずく、挨拶をしてもぎこちなかった。
けれどある日、図書室で課題をやっていた時に、任暁先輩が声をかけてきた。その時の私はまだ授業の進め方があまり分からず、風魔との授業内容と混ざってしまっていたりして課題が進んでいなかった。
そんな私を見かねて声をかけたらしい。先輩は私の手元を覗き込み、「ああ、これなら去年習ったな。」
と言って隣に座ったかと思うと、一つ一つ丁寧に説明してくださった。
任暁先輩の説明は分かりやすく的確で、あれほど悩んでいたことが嘘みたいにスラスラ問題が解けた。
課題が終わった後、そのことを伝えてお礼を言うと先輩は、
「当然だろう、い組だからな。これくらい後輩に教えられなくてどうする。
…まあ、お前が呑み込みが早いのもあるが。」
と言ってそっぽを向いた。
また教えてもらってもいいかと聞くと、またそっぽを向きつつも、「構わない」と言ってくださったので、それ以降もたまに図書室で勉強を教えてもらっている。
そのおかげか、少しずつ勉強以外のことも話せるようになり、会うと先輩のほうから声をかけてきてくれるくらいにまでなった。
任暁先輩繋りで、初日に会ったい組の学級委員長の今福先輩や、上ノ島先輩とも話せるようになった。
けれど、その彼らとよくいる……緋色の髪を持つあの人とは、初日以来一言も話せていない。
任暁先輩から教えていただいた。
あの人の名前は黒門伝七。先輩と同じ四年い組で、任暁先輩とは同室らしい。
作法委員会所属で、少し頭が固いが、成績優秀な優等生。プライドが高く、上から目線でツンツンしているため少し近寄りがたいが、頭が良い上に美形だから、くのたまからの人気も高いらしい。
というのは同級生のくのたまの子たちから聞いた話。
確かにそんな感じかも……
思い出すのは転入初日のこと。
きっと規律に厳しくて、警戒心が強い人なんだろう。怖かったけれど……でも何も知らずにいた私が悪いし……
たまに見かけることはある。もう一度謝ろうと、初めの頃はその度に声をかけようとしたけれど、毎回避けられてしまう。
そのうちどうしたらいいのか分からなくなって、今は話しかけようとする勇気も出ない。
不思議に思ったらしい同級生のくのたまの子たちに黒門先輩とのことを聞かれ、初日のことを話すと、
「何それ、それは黒門先輩が悪いよ!」「勘違いにしたって、怒鳴ったんだからその後謝るのが普通じゃない!結が謝ることないよ!」「かっこいいけどそれはない!結は悪くないからね!」
と怒ってくれ、慰めてくれた。その後は私が黒門先輩の姿を見ると、さりげなくその場から連れ出してくれるようになった。
皆の気遣いはすごく嬉しい。
避けられてどうしたらいいのか分からなくて不安だった私を支えてくれた。
けれど、やっぱりもう一度、黒門先輩と話してみたい。
このまま避けられ続けるのは辛い。仲良くというほどまでにはなれなくても、せめて挨拶くらいはできる関係になりたい。
初日のことだってまだ解決できていない。だから、ちゃんと話したい。
けれどどうしたら話せるんだろう……
そう思っていた矢先、機会は訪れた。