NOVEL
□優しい道(甘)
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百目鬼誕生日記念
原作沿いver
優しい道
三月三日。
桃の節句、若しくは雛祭と呼ばれる本日は、百目鬼の誕生日である。
というわけで。
「百目鬼、おめでとう」
四月一日は、ちゃんとプレゼントを用意していた。
「おう」
本当はなにか百目鬼の欲しいモノでも、と思っていたのだが。
訊いてみれば一緒にご飯食べて祝って欲しいというので。
寺の前、桜の木の下で雛祭を兼ねた誕生日会だ。
ちなみに、二人が男で雛祭は関係ないんじゃないかというツッコミはスルーの方向で。
「散らし手毬からでいいか?」
「あと卵焼き」
「はいはい」
今日は侑子の介入もなく、二人きりでの誕生日。
去年は同じ桜の下で弔いの音を奏でるために、麻雀をやった。
一日一日が早く過ぎ去る。
四月一日にとって日常とは平坦で、しかし恐怖や不安と隣り合わせだった。
逆に言えば、不穏の日々が平坦に続いていたということになる。
それを変えたのは…。
「四月一日、筑前煮」
この、余り感情を表に出さず、求めてもないのに助けてきて、そして見返りも求めず自分を愛してくれる男、百目鬼だった。
「筍多目、だろ。それから酢の物。あとは自分で取れよ」
傷付いたこともあっただろう。
心無い言葉を、表情に出して怒らないからと散々投げかけてしまった。
けれど百目鬼はそれさえも、否、それごとまとめて愛してくれる。
「…四月一日」
だから四月一日は選んだ。
たとえ男同士であろうとも。
それによって世間から蔑まれようとも。
どれだけ傷付こうとも。
「ありがとう」
これから先の運命が、どうなろうとも。
「俺こそ」
百目鬼を、一心に愛する道。
「百目鬼が生また日を一緒にお祝いさせてくれて、ありがとう」
なにがあっても、哀しませない道。
「来年も、一緒に祝わせてな」
共に在る、優しい道を。
「阿呆。来年の前に、来月お前の誕生日があるだろう」
「それもそうだけど、祝うのと祝われるのじゃまた別だから」
「そうか?」
「そうだよ」
百目鬼はじっと四月一日を見詰める。
四月一日も百目鬼を見返し、にこりと笑った。
「それなら、来月は俺が祝う番だな」
百目鬼は納得したのかしないのか、言いながら散らし手毬を一口で食べる。
「そうやって交代に、この先ずっと祝ったらいい」
──優しい道。
百目鬼はいつも、さり気なく、その道を用意してくれる。
四月一日が迷わないように。
一人きりにならないように。
「──…うん」
だから四月一日は選んだ。
「この先、ずっと」
百目鬼さえいれば幸せになれるであろう、優しい道を。
【終】 2008.3.3
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