NOVEL_Long

□ヴァンパイア、ホールドアップ!
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怪物は言った。

自分達は生きるために人間を殺すのだと。

それなら怪物は自分の事も殺すのだろうかと、夢現に考えた。










5.奇妙な同居人











四月一日から一通りの話を訊いて、折角だからと手を伸ばした手製の食事。
誰かが作ってくれたものを食べるということが久し振りで何だか嬉しい。

が、していた話が話なだけに、何となく手が進まない。



「喰わなかったら失礼だろ。残さず喰えよ」



人間の悪いところは、必要以上に捕食する部分だ。
特に日本などの先進国は、飽食国家とはよく言ったものでやたらと嗜好品を多く食す。
無駄に捕獲して余らせ捨てているのだから、本当に地球に優しくない。
むしろ外敵だ。
絶滅するなら人間がいいのかもしれない。

宇宙レベルやら起源レベルまで思考が飛んで、ようやく凡てを食べ終えることが出来た百目鬼。
少なめな食事だったにも関わらず妙に腹が満たされ、眠気が再び襲ってくる。



「美味かったか?」



美味かったとも。
自分好みの味付けで、自分好みの量。
だが眠気が勝って返答が曖昧になってしまう。

四月一日が苦笑した気がしたが百目鬼はどれどころではなく、フラフラと立ち上がった。



「貧血と疲労だな。飯喰って寝れば少しはよくなるよ」



倒れそうな百目鬼の身体を四月一日の細い腕が支える。
情けないが本当に思考がうまく廻らず、四月一日に体重の半分以上を預けてしまっていた。



「早く回復するんだぞ」



ベッドに身体を横たえ、布団を掛けてもらう。
冷たい四月一日の手が目元に乗せられ、瞼を閉じた。

四月一日の温度が心地いい。
離れていく手を無意識に掴んで、百目鬼は思う。

四月一日は驚いて息を飲んだようだったが、何も言わず握り返してくれて。



「逃げたりしないから。だから、ゆっくり寝ろ」



耳に柔らかなアルトが響く。

手を掴んだのは本当に無意識で、逃がさないためじゃない。
けれど、離れていってしまうのが寂しいと感じたのは事実で、百目鬼は四月一日の冷たい手を引き寄せた。



「オヤスミ、百目鬼」



初めて呼ばれた名前。
自分の名前が甘美な響きを持った瞬間、百目鬼の意識は暗闇に落ちていった。





***

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