□ピアノ
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レベッカは、クリスが出て行ったあとでドアをロックすると、静かに彼の幸運を祈り、それから埃まみれのピアノのところに戻って椅子に腰かけた。クリスが自分たちに対して責任を感じていることはわかっている。だから尚更、自分が銃を落としてしまったことの愚かさが悔やまれてならない。


少なくとも、銃を所持していれば、こんなにも心配かけずにすんだものを。私は経験不足なのかもしれないけど、みんなと同じように基礎訓練は受けている……。


レベッカは己の不甲斐なさを感じながら、埃の積もっている鍵盤に指で意味のない図を描いていた。保管室からファイルをいくつか持って来るべきだった。あの古いファイルから更に何か情報を得ることができるとは思えないけど、少なくとも、それで何か読むものが手元にあったのに。大人しく座っているのは得意ではない。とりわけ、何もすることがないなんて最悪だ。


「レベッカ。これ、弾いてみてよ」


自分の傍から離れて、室内を歩き回っていたリョーマが黄ばんだピアノの楽譜をレベッカに渡した。レベッカは楽譜の楽曲名を見て、懐かしい気分になった。曲名はベートーベンの『月光ソナタ』、レベッカのお気に入りの楽曲のひとつだ。


レベッカは黄ばんだ楽譜を手にとりながら、自分が10歳か11歳のとき、その曲を弾けるようになろうと時間を費やしたことを思い出した。実際のところ、自分はピアニストに生まれついたのではないと思い知ることになったのは、この曲のせいだ。『月光ソナタ』は美しく繊細な曲だが、自分が弾くと必ず台なしになった。まあ、ジルなら期待を裏切らず、美しく弾いてくれるのだろうけど。




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