□対面
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今まで生きてきて、これほど怖い想いをしたことはなかった。

越前リョーマとレベッカ・チェンバースは永遠とも思われるあいだ、ドアを擦り続ける腐った肉の微かな物音を聞きながら、刻一刻と恐ろしくなっていく状況のさなかにあって、必死に練った策を検討していた。眼前のドアにロックはない。しかも、この館に逃げてくる途中で銃をなくしてしまった。この小さな保管室は化学薬品やファイルの山でいっぱいだが、防御となるものは何もなかった。ただ、半分残っている殺虫剤のスプレー缶があった。


今その缶を握り、レベッカは狭い部屋のドアの内側に立っていた。万が一、そして実際にとうとうゾンビが取っ手の使い方を理解した場合、奴らの目に殺虫剤を吹きかけ、突破口を見いだすつもりだった。


お笑いぐさかもしれない…でも私は、この子を守り抜かなくちゃ…!


ベッドに座るリョーマを一瞥して、再びドアへと目を向ける。自分のことだけで精一杯なのに、ついさっき会ったばかりの少年を守り抜けるかかなり不安だ。しかし、自分はS.T.A.R.Sの一員なのだと言い聞かせ、怖じけづく自分を宥める。


どこか近くで銃声を耳にしたような気がした。しかし、それっきりだった。チームの誰かかもしれないという希望は、数秒が経過した時点ではかなくついえた。ひょっとすると、生き残っているのは自分とリョーマだけではないかと本気で考え始めた時、ドアが勢いよく開き、何かが喘ぎながら部屋の中に飛び込んできた。


レベッカはためらわなかった。
ベッドに座るリョーマの手を取り、前に躍り出ると、スプレー缶のボタンを押し、相手の顔めがけて化学薬品の霧を放ちながら、そいつの脇を通り抜けようとした。




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