かきもの

□俎板の上
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ザックとは、彼の生まれ故郷で出会った。

初めて出会った彼は身体が今より細く、まだ声替わりしていなかったせいかよく女に間違われていた。

暴漢に襲われているザックを助けたのがすべての始まりだったのだろう。
・・・礼より先に金を貸してくれと頼むやつも人生で初めて出会った。

それからしばらくの間、一緒に夏と冬を越えて、生き延びてきた。

ザックとの生活。

罪の教団で色欲と強欲に雁字搦めになり、教団から保護された教会でも他人の悪意と裏切りにさらされ心を閉ざしていた俺は、ザックとの生活のなかで初めてそれが、教団の教えが間違っていたことを教えられた。


はっきりとはわからないけれど、そのときから俺はザックの事が好きだったのかもしれない。

スラム街で寄り添いながら生きる間に生まれた感情。


俺はその感情を秘めて生きると決めたのに。


そのまま何年か、月日が流れて。

ふとしたことから、自然に道が別れた。

俺は騎士になり、ザックは革命軍に身を投じて。



もう出会うこともないとおもっていたのに。

茶熊学園で、俺達は再会した。



学園寮で、ザックと同じ部屋で生活する夢のような幸福を味わうのもつかの間。

彼が俺よりも女子達のさえずりが気に入っているのだという絶望を与えられて。

彼は、いつも、朝帰りして。

そのくせ、誰よりも俺を大切に。やさしく、して。



『男は無理』


伝家の宝刀に斬られた俺は。





学園での生活の中で、俺は、まともでいることを諦めた。

ザックが欲しいと願った。

心のままに、強欲に。
罪の教団が教えたままに生きていく。

そのために、壊したって構わない。



欲しいモノは、奪ってでも掴み取れ。

革命軍の在り方に迷っていたザックを奪い、寝取ってやった。

けれど、それは俺自身がザックを求めていたからではないのか?

許しを与えた理由に、俺はまだ答を出せないでいる。



俺が生まれて育った島。
罪の教団で俺は何も知らないままに育てられた。
見てくれが良かった俺は司教に気に入られて、呪いの紋章以外にも色々なモノを与えられて・・・教団が滅ぶまで、そして今も俺は自分に与えられたモノに生かされていた。



例えば金。
気がついたら、口座に莫大な資産が振り込まれていた。
それ以外にも。
働かなくても、慎ましい生活をする分には苦にならない額が、毎月誰かから送金されている。

誰かも分からない奴に生かされているようで頭にきて、銀行の口座を変更しても、振り込みは終わらなかった。

銀行の口座を凍結したら、当時部屋を借りていた宿屋の主人から金を渡された。見知らぬ子供が俺宛に置いていったそうで、仕方なく受け取った。

新規に複数口座を作ったら、それぞれに均等分されて送金がされて。

当時宿屋でルームシェアをしていたザックに事情を説明したら。

「だったら俺の口座を使って生活費の引き落としして構わないぜ」と言ってくれたのでザックの口座を生活口座に利用したら、ザックの口座に金が振り込まれていた。

眉唾だった正体不明の送金が本当にされたことに、ザックも嬉しさよりも不気味さが勝ったらしい。



何をどうやっても、どうしても。
俺に金を渡したい輩がいるらしい。

送金され続けた金はかなりの額になっていた。




だったら利用するまでだ。




・・・迷ったが、何時までも宿屋を借り続けるのは面倒だったし、騎士の任務に向かう際の準備の利便性もあって飛行島に土地を買い家を建てることにした。

宿屋は個人のプライバシーが無かったことも、ザックに手を出せない環境に苛立たしく感じていたのも理由にあった。

思えばそれがザックの思い込みを作ったのかもしれない。

ともかく、以前村の防衛の任務で親しくなった建築王女に打診して、家を建てて貰えないか交渉した。

「任せてください。しゃおらー!」

女王は最高の家を建ててくれた。


俺の欲望の満たしてくれる巣。俺の家。


ザックの要望を組み入れた家に招いて。


任務に行かない日は朝晩ヌイてやったら学園で性に目覚めたばかりだったザックの身体はあっさり堕ちた。

ザックを家に住み着かせることに成功して。

そして。

つい最近、ザックの身勝手な思い込みで雁字搦めになっていたザックの心もオトして、蟠りを解いて恋人になった。

長かった。本当に長かったな。

それから、ザックは俺に甘えるようになった。
それは悪いことじゃない。
二人きりになった時にザックから求めてくることが増えたとか、外に出ていてもくっついてくることが増えたとか、ザックが強がって意地を張って我慢していたことを止めただけだから。


やっと俎板の上に上がってきたようなものだ。

これからゆっくり時間をかけて、調教してやる。
俺以外誰にも目に入らないように。

最低限、俺の隣に立っても恥ずかしくない振る舞いを身につけて欲しいと言うのもあった。

基本的なマナーも、知識も、ザックは劣っていた。
学園で再会した時、彼は読み書きも満足に出来なかった。

肉体の調教の傍らで、俺はザックに勉強を教えてやった。

読み書きが出来なかったことが、ザックが学園で失敗して俺に彼いわくの貸しを作った一端になったのだから。

読み書きと、書き物の練習がてら、散財の酷い彼に小遣いを与えて毎月帳簿を付けさせた。
プラスマイナスがちゃんと帳尻が合えばご褒美をやる。

それはまあ上手くいっていた。
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