かきもの

□硬貨の表裏
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朝。

目を覚ましたら、隣にリアムの姿がなかった。

「…ふぁ…」

欠伸を一つして、俺は身体を起こすとリアムが眠っていた辺りのシーツに手を触れた。

冷たい。

いつものことだ。

眠っていた俺を起こさないで出ていったのなら、リアムはおそらく早くに外出して。
まだ、冒険者達が島で活動を始める前に鍛練に出掛けたのだろう。

リアムが身体のトレーニングをしたり剣術の鍛練をしている姿を、恐らく付き合いが一番長いだろう俺も数える程しか目にしていない。
彼は自分が努力したり、足掻いている姿を他人に見られたりすることをよしとしないフシがあった。

「伝説の男は苦労なんてしないんだぜ!」がリアムの他人への口グセだ。

うそつき。
本当は誰よりも努力家だって、俺は知っている。
リアムの朝の洗濯物が、夏も冬も汗でぐっしょりと濡れているから。

俺は昨日の自分の服とリアムの服を洗い物をまとめるカゴに放り込み、その中からリアムが脱いだままのシャツを肌着代わりにして、台所へ向かった。



着火のルーンでかまどに火を起こす。

かまどが温まるまでの間に、食材をまとめてある棚から、卵とベーコンと、パンを取り出して。
冷却のルーンを内蔵した庫からチーズとバターを取り出す。



リアムが家を建てると言った時に、寝室とベッドにリアムは拘っていたけど。
リアムが炊事をしない人間なので、食べ物に関して無頓着だったから。
俺はこうした冷却のルーンを内蔵した保管庫に金を惜しむなと口を酸っぱくしてリアムを説得し続けた。

俺がここに住まわせて貰う代わりに家事をするようになってから今日まで、その事で文句を言われたことは一度もない。

かまどが熱くなってきた。

朝食の準備をしなくちゃな。
四角いパンの中を指二本分程の厚さにスライスして、中をくりぬく。
フライパンにバターを一かけ落とし、溶けてきたらパンの耳の方を先に焼き始める。フライパンの空いたスペースでベーコンを焼きながら、パンの中に卵とチーズを流し込む。
本当はベーコンも卵とチーズと一緒に焼いて片手で食べられるようにしたいのだが、ベーコンは別に食べたいというリアムの強い要望があって添え物にしている。
食べちゃえば一緒なのにな。

卵に火が入ったら、くりぬいたパンを上から被せてひっくり返し、パンとチーズを馴染ませる。

もう一枚俺用にパンの厚さ半分サイズで焼き上げていると、リアムが帰ってきた。


「おかえり、リアム。洗い物カゴにいれておいて。パン焼けるから、先に食べよう?」

わかった、とリアムは手を上げて寝室に向かった。

彼が汗に濡れたシャツを着替えてくる間に目玉焼き入りパンとベーコンを皿に並べ、一昨日作り置きした焼きりんごをデザートに一緒に出す。

テーブルにパンと焼きりんごを並べていると、リアムが戻ってきた。

「ああ、良い匂いだ。…おっ」

「りんご、一昨日焼いておいたよ。初めて焼いたから味が心配なんだけど…」

「不味くても食べる」

リアムがミルクと食器を並べてくれたので俺はそのままイスについた。

うん。
今朝もパンは上手に焼けた。
色と匂いでわかる。

だけど…

「いただきます」

「いただきます」

リアムは焼きりんごをナイフとフォークで切り分けると、パクりと頬張った。





彼が食べる最初の一口目。
いつも、この瞬間がドキドキする。
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