かきもの
□深淵の底
1ページ/17ページ
『ある童話』
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
ある冬の吹雪が続く時でした。
狩人が傷付き倒れた時、兎が出来ることは何もありませんでした。
いつも狩人に尽くす兎が責められることはありませんでした。
狩人は兎を愛していました。
兎もまた、狩人を愛していました。
兎がいなければ、狩人は森で狩りを出来ず、動物たちは心ないハンターの餌食になっていました。
皆、兎がいたから、森で平和に暮らせていたのです。
兎が狩人のそばにいて勇気付け、支えてあげることが何よりの薬になると知っていたからです。
みんな、兎が狩人に一番忠誠を捧げていたことを知っていました。
だから、兎を責めるものは森にはいませんでした。
けれど、兎には耐えられませんでした。
自分が無力で何も出来ないこと。皆が自分を責めないことが、兎には耐えられませんでした。
兎は狩人に出来ることを探しました。
何もありませんでした。
狩人はやがて今にも息絶えそうに弱りきりました。
もう、時間は残されていませんでした。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
『深淵の底』