かきもの
□朔望の月・朔
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『狩人と兎』
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狩人の命は、風前の灯火のように、今にも消えそうでした。
兎は、自分にしか出来ないことを果たしました。
兎の毛皮と蒼い瞳。
銀色のそれは大層高価で、肌に纏うと寒さを防ぐため、乱獲されるほど高価で貴重でした。
蒼い瞳は珍しく、幸運のシンボルとして重用されました。
兎の肉は柔らかく、血は滋養と強壮の栄養をたっぷり含んでいました。
兎は自分の存在そのものが、狩人を救うのだと知っていたのでした。
だから、兎は最後に残った自分を狩人に捧げました。
刃と焔に身を投じ、文字通り全てを狩人に捧げたのでした。
兎の美しい毛皮は狩人の襟巻きになりました。
珍しい蒼い瞳は留め具になりました。
襟巻きは狩人の身体を暖め、命を繋ぎました。
兎の身体は焔に焼かれ、滋養たっぷりのゴチソウになりました。
ゴチソウを食べ、狩人は狩りをする体力を取り戻しました。
焔の中、焼け落ちず残った兎の右前足の骨は、狩人の幸運の御守りになりました。
兎の御守りに護られ、狩人は生涯罠にかかることが無くなりました。
狩人は兎のお陰で元気になり、狩人として武勲を挙げて出世を果たしたとさ。
めでたしめでたし。
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『深淵の底』