お題

□小さな嘘
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⚠ツキステ。夢見草ネタ
苦手な方は回れ右




「海さん!」
「おー、名前どうした?」
バクバクと高鳴る心臓を押さえつけながら、桜花衆が蔓延る地上を駆け抜けてきた名前は呼吸を整えつつ目の前にいる海の生きてる姿に一息つく。

「よかった...陽くん、自分だって大変なくせに...全然ピンピンしてるじゃないですか...」
「陽が呼んでこいって言ったのか?あいつも律儀だな」
「全くです...桜花衆ですか?」
「あぁ、でもかすり傷だよ...この体思ったよりもたくさん古傷があるんだ」

その言葉を聞いて名前はきゅっと唇を噛む。
自分もかつて海や春達と背中をあずけて戦っていた仲だ。
彼らとの激しい戦いを知らないはずがない、けれど自分がいることが足でまといということがわかったその日から前線から遠ざかった。

「片目...、見えてないんだってな」
「陽くんですね、余計なことをペラペラと...」
自分だって不治の病で余命宣告だってされてるのにも関わらず仲間のために剣を振るい仲間達と肩を並べて戦っている、それがどれだけ名誉であり誇りになるのか、名前だって出来れば戦い抜きたかった、戦場で最期を迎えたかった。


「桜花衆...か?」
「...いえ、元々です。生まれた時から...」
「そっか、いいのか悪いのか...」
「元々知らなかった景色です、片目が見えるだけ感謝ですよ...気にしてません」
ハリボテの感情だ。
この時代の海には何度も何度も愚痴をこぼしていた。
見たいのに見えない、大好きな仲間、愛する人をめいいっぱいに見えない自分が憎いと。
その度に海が名前を不器用ながらにあやしていたのだが今はその海が不在ともなれば落ち着かない。

「俺のいた時代なら治せたのかもなぁ...」
「日本...?でしたっけ」
「おう、こことは全然違うな〜もっと騒がしくて時の流れが早い。退屈はしないがな」


日本...平和な世界...
その言葉がどれだけこの時代の人間の胸をつつくのか。
生まれた時から殺伐とした時代に生きて、いつ死ぬのかわからない恐怖に駆られながら怯えて過ごしてきたヤマト国の人間にとってどれだけ幸せなことなのか。


「早くこの時代の俺に会いたいだろ?」
「まぁ...はい...って、あ、えっと...」
「素直でよろしい」
ポンポンと名前の頭を撫でてくる。
こういう所は同一人物なのだなぁと名前は感心する。


「まってろよ、平和な世界に変えて必ずこの時代の人間を救うからな」
「...待ってます...」
「そろそろ夜も深くなる、お前も戻れな」
「はい、では...また会える日を待ってます」



時しばらくして陽が亡くなったこと、平和を取り戻した世界に生まれ変わろうとする時代をみんなで作ろうと海や春達がまた別の組織を組み立てようと試行錯誤すること。
その場所に名前の姿はなかった。
海がこの時代に戻ってきた頃にはもうその姿はなく、一緒に過ごしてきた仲間によれば本人は随分前から気落ちしていて海達が入れ代わったショックでそのまま行方知らずになってしまったという。




小さな嘘を積み上げて

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