お題夢

□ファンだから
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「おーい!駆ー!」
大学のキャンパス内でひときわ響く声。
その声の主は恋だった。
「ちょっ、恋!声デカイから!!」
少し前を歩く駆を呼び止めたかったのか恋の出した声はお世辞にも小さいと言えないボリュームでキャンパスの中庭に響き渡った。
同学年の知り合いはその姿を見てまたやってる、などと口々に紡ぎながらもふたりのいつものやり取りを横目で見る程度なのだ。
大学自体は高校からエスカレーター式で上がってきたために知り合いや、ふたりのアイドル活動のことを知っている人がほとんどなために特に大騒ぎすることなくキャンパスライフを送っている。


「もー、ほんっとに恋のボリュームはもう少し小さくならないかなあ」
「ごめんって、いいじゃんか!置いていかれるの寂しかったんだもん!!!」
自分で開き直る恋に駆は苦笑いしつつそんなコンビの相方を誇らしく思っていたりする。
「おお、前から女の子の集団...って、苗字さんじゃない?」
恋はの表情は女子の集団を見つけるとぱっと明るくなったがその中に名前の存在を見つけると駆に行ってきなよと背中を押す。
もちろん面白半分、真面目さ半分。


「ちょっ、苗字さんだって急に俺が行ったら迷惑だろ!」
名前は駆が密かに好意を寄せる相手だと恋は気づいているのだが駆本人が鈍感なのか奥手なのか、気づいていないようなのだ。
だから少し強引だが恋は駆の背中を押すのだが...
「か...師走くん!おはよう」
「あっ、苗字さんおはよう、今日もいい天気だねっ!」
駆と恋の存在に気づいたのか名前の方から声をかけてきた。
周りにいた友達は次は講義を取っているらしく名前は時間を潰すように話している。
「師走くんもこの後講義なの?」
「この後は一コマ休み!苗字さんは?」
「話してた通り!私も一コマ休みなの!」
気を効かせていつの間にか恋はいなくなっていた。
「じゃあ!もしよかったら一緒に時間潰さない?」
「えっ、でも...」
「あっ、ごめんね、苗字さんにも都合あるのに」
「うっ、ううん!とっても嬉しいんだけど...私と2人でいいの?」
名前は駆の立場を気にしてうーんと首をかしげている。
元々駆と名前が知り合ったのも名前が駆のファンであったから、それをわかっている上で駆は名前に惹かれている。
「いいに決まってるよ!ほら、行こうよ」
駆の天真爛漫な笑顔を向けられると名前はうんとうなづいて隣を歩く。



「学園祭は誰かと回るの?」
大学の食堂でお互いに課題を進め、他愛のない話をしていると駆が名前に質問をする。
「うーん、いつのもメンバーじゃないかな?」
「そっ...か...」
「師走くんは?」
「俺は仕事...が無ければ恋かな?後は高校の時のクラスメイトとか!」
マンモス校なために高校のクラスメイトが多々同じキャンパスにいるためそんなことは考えたことがなかった。
ただ名前が誰と回るのかが気になっただけのだ。
「仲良しだもんね、如月くんと」
「高校1年からの付き合いだもん、恋はいい人だしね!」
しばらく恋の話をすると駆は改まったような顔になって名前の方を向き直す。


「あのっ、文化祭...もしよかったら一緒に回りませんか!?」
「え?」
「本当に、嫌じゃなかったら...!!苗字さんがよかったら!」
駆は真っ赤になりながら名前に頭を下げる。
「あの...でも、私...ファン...っていうか駆くん顔上げて!!」
「ファンなんて...関係ないから!!俺たちは、友達だから!!」
思いっきりブンっと頭を上げる。
名前はそんな駆を見てふっと力が抜けたように笑う。
「そうだよね、友達だもんね」
「...あっ、そうそう!友達!!!」
この2人がお互いの恋心に気づくまで、もう少し...

恋が後ろの席で笑いをこらえて見ていたのはまた別の話。
ファンだから駄目なんだよ


「駆さん、頑張って!!!!」
「恋...うるさい...」



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