Asteroid Of Continental
□MOVE ・3 ー 大地ー
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「わぉ!感激っ。俺ちゃんその辺で買い食いでも良かったのに。わざわざ来てくれちゃったん?」
籠を受け取って、でも中身を覗くのなんか後回しだ。今夜は時間潰しの用意ひとつなく、一人で過ごすはずなのに、キッドの顔が拝めるとは思ってもいなかった。
「お前の顔が、見たくてな、、」
ごく自然に、するっとキッドの口から出た言葉にボウイは目を丸くしてピタリと固まった。ぶん回していた見えない尻尾まで止まっている。
キッドは気負いのない穏やかな顔で、真っ直ぐボウイの目を見ていた。ボウイもまた瞬きひとつせずにキッドを見つめ続ける。
と、、キッドの口元がニッと笑って、次の瞬間には吹き出した。
やられた。完全にからかわれた。
「た、、、タチ悪りぃーっっ、、」
言ってから大きく息をつくと、へなへなとその場にしゃがみこんだ。
「ひどいぞ今の!真顔でそんな事さらーっと!いつの間にそんな技マスターしてんだよっ」
文句は欠かさないが、屋台や音楽に目を輝かせて、更にこんな悪戯を仕掛けて来る、すっかり本調子なキッドにボウイは満足だ。
キッドの乗ってきたホバーバイクも洞に引き入れ、部屋のランプも二つに増えた。籠の中身は片方はメイが作った今夜の食事だったが、もう片方はキッドが道々買い漁ってきた屋台フードで山盛りだった。明日の朝食まで今作れとはメイに言えないとキッドは言うが、屋台にハマっているのは明白だ。
「で、どうなったよ?」
ニモルスの串カツをかじりながらボウイが訪ねる。この前とはソースが違う。ケチャップに似ているだろうか。
「完全に膠着状態」
スープに浮かんだ握り拳大のオムレツ、に見える物をつつきながら、キッドがわかりやすいため息をつく。
「そんなに?」
簡単に決まったならキッドはここまで来ないだろう。難航しているのはこの洞窟に作る家の部屋割りだった。
まさかこんな生活上の事で揉めるとは誰も思っていなかった。元のJ9 基地が広すぎた事の弊害にも思えた。キッドとボウイは互いの部屋に入り浸りすぎていたので、細かいことであれこれ揉めるのは慣れっこだが、他を巻き込むような事はなかった。メイとシンが一人づつの部屋になった時も、お町が広い部屋に移動した時も、何も困らないほどJ9 基地は部屋が余りすぎていた。
一人部屋を主張して譲らないのはお町だ。使えるのは四部屋。そこに六人。メイとシンはもう同室にはならない。男女として分けるべきであるから、当然、お町とメイが同室になるものだと誰もが考えていた。あとの四人はほぼどうでもいいと、これも皆そう思っていたが、お町の言い分が通るなら自分も一人がいいとシンも言い出した。
「なんだってそんなワガママ爆裂させちゃってんのかね、お町っちゃん」
「ばっか、決まってんだろ。お町とじゃないなら、メイは誰と、同室になるんだよ」
「、、あ!、、えっ?!まじで?!、、なんつー強行策、、!」
「それをさー、言わねえんだよ。あくまでも自分のワガママだからお願いってスタンスでさー。アイザックもメイも黙っちまうし、、、」
ボウイが串カツの串で埃っぽい床に間取りを引くと、横からキッドも手を出して訂正を入れていく。バックヤード部分に間仕切りをして一人ぶん増やす案。全体を少しづつ詰める案。いっそでかいワンルームにして雑魚寝する案。どれもどこかで無理や反対意見があった。
バックヤードに、店舗部分。それが事をややこしくしている。お町のワガママが原因に見えて、実はポンチョの意地悪が発端だった。