Asteroid Of Continental

□MOVE ・3 ー 大地ー
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 ◆◆◆

 少しだけ風がある。洞窟の入り口を覆っているシートがガサガサ音を立てるので、ボウイは押さえの石をいくつか足した。
 崩落した土砂の撤去は案外スムースだった。
 ソドムは今、人の出入りが非常に激しい。脱走者組織と出会うことも無いままバラバラに逃げていた地球人たちも人の多い場所を求め始めたし、無理矢理にマモンに連れてこられたナルキネ族などは故郷を目指した。逆に連れ去られた仲間や家族を捜しにソドムへ来る者も多かった。
 そんなわけでその場限りの賃金を貰いたい者はたくさん居たのである。ユージンらと顔見知りになっていたので、その取りまとめも話が早かった。
 一番大きかった岩を取り除くのに手間取りはしたが、要は地下通路を隠したままにしておきたかったエルドネが、敢えて手をつけずにいたのだ。
 エルドネの立場は実際はとても危ういものだった。地下基地の兵士がいたずら半分にトンネルを掘り始めた時、脱走者組織は見て見ぬふりをして泳がせ、情報を得ようとした。出口となりそうな場所にアタリをつけ、こちらからも洞窟を掘った。そしてエルドネをそこへ連れてきた。
 エルドネを拾って育ててきたのは脱走者組織の者だ。文字をしっかり教えなかったのはたいそうな手落ちだったが、エルドネの帰属意識は自分を捨てたマモンの側にはとうに無かった。
 首尾よくトンネルが開通して双方が鉢合わせた時が一番危険だったが、口の利けない子供とわかると兵士達はあっさりエルドネへの関心を失い、以来、何も言わない便利なフタとしてそこにいた。
 ところがである。AZ を倒す戦いの中で直接的にエルドネを知る者が命を落とすと、激戦と混乱の中、エルドネの事はトンネルの存在ごと忘れられてしまっていた。トンネルも地下基地も、あの戦いにおいては重要ポイントではなかったのだ。いったいいつまでトンネルを隠しておくべきなのか、エルドネにはわからなかった。
 昼間の撤去作業で舞い上がっていた埃もすっかり落ち着いてきた。ついさっき、日が暮れるまでエルドネがまだ使える家財道具を運び出しに来ていた。彼とイシュタルとは面識は無かったものの、互いの存在と役割については知っていた。マモンの兵士が気まぐれに話しかけるとエルドネは「イシュタル/いいおんな」と書いて見せたのだと言う。
 その二人の中間にボウイが居たことになる。夜の街で気晴らしをするマモンに声をかけては、娼婦イシュタルの元へ連れていく。その中にはエルドネを知る兵士も居たのかもしれないと思うと、ボウイはちょっと不思議な気分だった。
 通りにたくさんぶら下がっているのと同じ、筒型のランプを下げて、とりあえずは足元が平らになった洞窟を、ボウイは入り口から奥の方へ一歩一歩、広さを感覚で味わっていく。入り口付近は木造の壁や天井ごとかなり破壊されているが、奥半分はまだ家として利用できそうだ。特にトンネルを隠すために余分に作られた最奥の一部屋は無傷で残っている。
 昼間の撤去作業に来ていた者から掃除の道具でも借りておけばよかったと思いながら、無傷とはいえ砂だらけの奥の部屋にシュラフを広げて座り込む。これは一人部屋だろうか、二人入るだろうか、中途半端なサイズだ。ぐるっと見回して、ため息をついた。

「、、、まいった、、なーんもねえ、、」

 もう土砂は撤去されてしまったのだから、家が完成するまで誰かがトンネルのフタ役をしている必要があるし、明日ポンチョが連れてくる大工たちの作業にも、立ち会いと言う名目で張り付いていなければならない。洞内に止めてあるホバーバイクだけが今宵の友だが、いじり回そうにも道具を持ってこなかった。

「ボウイ!入るぞー!」

 表のシートをめくって声をかけてから、キッドはするりとその隙間を通り抜けた。もう一度奥に向かって呼ばわると、やっと奥の部屋のドアからボウイが顔を出す。

「メシ。持ってきた」

 メイがよく使っているメルヘンちっくな籠をふたつ、止まっているホバーバイクにとん、と乗せた。




 
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