Asteroid Of Continental

□MOVE ・3 ー 大地ー
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 ◆◆◆

 ポンチョはちょっとイライラしながら地下基地を後にした。既に自分の物として確保した紫縞の小型機を北に向ける。行き先は円環都市の東側だが、一応、街の真上は避けて飛ぶようにはしている。
 何にイラつくと言って、もちろん地下通路だ。こっちは闇の始末屋なのだ。そうと知らせて取引をした訳ではないが、街に繋がっている抜け道があるなど、宇宙のドーム建築に穴が開いているも同然ではないか。殺人も厭わず引き受ける、だからこそ金を生むのだ。メンタルにも社会的にもリスクを負い、命まで危うい所へ晒している彼等のアジトとして、それはないだろうと言うのが率直な気持ちだ。
 もっとイラつくのは彼等が「このままでいい」と言ったことだ。通路を潰さず利用すると。それでは売り主に文句を言って貸しを作ることも出来ない。次の商売の種になったかも知れないものを。
 通路の事を知らずに売ったならラッキーじゃないかと、ボウイが言った。口止め工作が無用ならその方がいい。尤もだ。万が一の時、袋のネズミにならずに済むとキッドが言った。それはそうだ。
 すました顔のアイザックが特に反論もしなかったのが一番カチンときた。何も言わなかったが、あれは解っている。人の間にまみれて、人々の価値観や喜怒哀楽を、そして世間の情勢を共有していなければ、いつか若い彼等は望まぬ仕事を蹴る判断に窮するだろう。儲けを減らすようで勿体ないが、そこはポンチョも承知した。J9 結成当初からの事だ。
 だが、ここまで密に世間と関わっていればどうなるか。わかりきっている。彼等は独自で仕事を見つける率が高くなるという事だ。自分を飛ばして、だ。
 放っておいたらきっと安請け合いの何でも屋になるに違いない。警護や運び屋ならまだわかるが、迷子の世話から家の修理までうっかり引き受けるのではあるまいか。アステロイドじゃ名の知れた影のポリス。泣く子も黙るコズモレンジャーJ9 。そのブランド力をただでさえ捨てて来ていると言うのに。
 放ってなどおくものか。ハイリターンの仕事をつかまえて来るのは自分しか居ない。メンバーもマシンも、仕事も報酬も、飛び切りの状態を維持するためには自分が、このパンチョ・ポンチョがどうしたって必要なのだ。
 そこまで考えると少し気分が良くなった。たまには「このガキ!」くらい言ってみても良かったが、やめておいて正解だ。「ガキ」。この素敵な響きの言葉は大事にとっておくと決めておこう。いつか言ってやるのだ。彼等が足を洗うと決めた時。「ガキども、いい稼ぎっぷりだったな」と。
 本格的に気が晴れてきたポンチョは、もうひとつ楽しい事を思い出した。彼等が勝手にあれこれ決めてしまった腹いせに、ひとつ意地悪をしてきたのだ。



 
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