Asteroid Of Continental

□MOVE ・1 ー北極ー
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 ◆◆◆

「ったく、信じらんねえよな。スクーターだぜ?!」

「リフトなりトレーラーなり思い付かないもんかしらねぇ?」

「荷下ろしの手伝いしてくれる気ないのかと思って、さすがにわたしもがっかりしちゃった」

 昨夜まとめて倉庫に下ろしたコンテナから、自分たちの荷だけを取り出し、司令部三階のJ9 に割り振られた一角へ。全員で集まる時によく使う多目的スペースで、買い出し部隊の三人が荷ほどき中である。
 衣類や消耗品、取るに足りないが無いと困る、、そういった品々が中心だったが、本の類いもかなりある。
 ソドムの内側に広がっていたマモンの居住区から、どさくさの戦利品として大量の品がバザールに流れていた。その雑踏の間を走り回ってメイが確保した本だ。マモンの子供向けに書かれた物がなかなか役に立つのだ。
 J9 の面々はAZ が倒れた後、三ヶ月ほどでこの北の地に引きこもった。ここにも脱走者組織の者達が、とりあえず施設維持のために駐屯はしていて、今回のように彼らの物資輸送に買い出しの便乗をさせてもらったり、たまには一緒に体を動かしたりと交流もある。その彼らから得る知識もあるが、まだまだこの星の事を知らなさすぎるのだ。子供向けらしく絵の多く描かれている動植物の本など特にみんな面白がったし、昔話を読めば価値観を想像する助けにもなった。それは多方面からの情報を鬼神の如く頭に叩き込んでいるアイザックも同様で、荷が届けば一緒になって絵本を楽しむのだ。
 ここの最大部族はナルキネ族である。だが、彼等は長い年月のAZ の支配で文化的にかなりのダメージを受けており識字率も低い。AZ の側に居て軍事に特化しながらも文化を維持してきたマモン族と、数の多いナルキネ族の言語が同じであったのは誰にとっても幸いであった。

「お町、一緒に来てくれ。武器弾薬の引き取りに行くぞ。キッドはどうした?」

 アイザックが早足で現れて、とりあえず持っていって構わないような自分用の荷を幾つか手にする。

「自分が欲しかった物かかえて部屋にこもっちゃったわよ」

「なんだ、三人も居て奴のわがままを放置か?とにかくキッドも連れてきてくれ。その後、機体整備の関係の品を分配するからボウイ、シンと一緒にな」

「あ、じゃあ食品はもう倉庫から食堂に移ってるわね。わたし行ってくる!」

 メイが植物の皮を美しく編み上げた籠をひとつ抱えて小走りで入り口へ向かうと、そこに立っていたアイザックはハッとたじろいで大きく一歩身を引いた。昨日の夜、第五桟橋に降り立ったメイは、アイザックの姿を見つけるやいなや駆け寄り、皆の前で頬にキスをして見せたのだ。ぎりぎりだが、そんな事の出来る身長になっていた。
 今度はつんと、素知らぬ顔でメイが通り過ぎていくと、アイザックはようやく安堵のため息をつく。

「ぶ、、、っははははははは!!アイザック、、びびってやんの、、!!」

「もーっっなっさけなーい!ほんと情けないわねーっ」

 アイザックはばたばたと荷物を叩いて笑い転げるボウイに近寄ると、帽子の鍔をぐいと引き下げて黙らせた。メイの去った方をまだ気にしながら、自分もそこへ座り込む。

「お前ら、、、私とメイがどうにかなるなんて本気で思っているのか?人をからかうのは楽しいだろうさ。だが、からかっているならまだしも、煽っているつもりなら怒るぞ。マジでだ」

「メイを泣かせたら逆に俺ちゃんが怒るぞ。マジで」

「あら、ボウイちゃん素敵」

「あら、ありがと。ま、味方につけようったって無駄だぜ、ダンナ」

 メイ・リン・ホー。現在十三歳。五歳で両親を亡くし、双子の弟と三人きりで、十歳年上の男性と五年間を過ごした。
 その男性が、思っていたほど大人ではなかった事に気づいたのは、十歳の時。新たに三人の同居人を迎えてからである。彼は言動や立ち居振舞いは大人ではあったが、それまで持っていた大人のイメージ、、、つまり親よりはちょっと若い、、、と言うのは大層な間違いであり、わいわいぎゃーぎゃーと毎日賑やかな三人にずっと近い年齢なのだと。
 その頃にはもう恋に気づいてもいた。そして現在、彼への告白の回数は、、すでに数えきれなくなってきた。

「ところでさ、ダンナ『ぎらるるー』って言葉、意味わかる?」

「いや、初耳だ。ナルキネ語か?」

「どうかな?バザールの中でちょくちょく耳に入ってきたんだけど、翻訳機がそこだけ反応しないんだよね。誰かつかまえて訊いてみりゃ良かったんだけど、ヒマなくてさー」

「一応調べてみよう」

「いーよ、そんな真剣になんなくても」

「メイの事もそれくらいさっさと真剣になればいいのよ」

 話題が逸れたものをまた蒸し返され、アイザックは苦い顔をして部屋を後にした。





 








 
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