Asteroid Of Continental
□猫、帰る
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ちょうど植物の成長が著しい季節になっていた。カモフラージュのために周囲の木々から引き剥がしてブライスターに被せたツタ状の植物は根を大気に晒されてもなお新しい葉を増やしていたし、一キロ以上も木々をなぎ倒したランディングの痕跡さえ上空からは判別できなかった。
それでもやはり地上に降りてみれば、上部こそ新たに伸びた枝葉で空を遮っているものの、引き裂かれた生木が痛々しく連なるトンネル状の空間はジャングルに異様なたたずまいを見せていた。
「すげえクラッシュ・ランディング、、」
「そうでもない。周りが木だからハデに見えるだけだよ」
「これで炎上も横転も無しに止まってるとか、、、信じらんねえ、、」
「上手でしょ?さて、このツタだけでもどかさないとな」
キッドはこの光景に圧倒されていたが、ボウイは不時着そのものについてはラクだったとさえ思う。岩場や山岳地帯だったらその時点でアウトの可能性は高かった。少なくとも機体は捨てる羽目になっただろう。
ブライスターの周辺は見通しも足場もそう悪くはなく、下草刈りはせずに済みそうだった。手動でラダーを出してよじ登ったボウイが、絡んだツタを切っては投げる。下ではキッドが降ってくるツタに文句を言いながら、これも切っては捨てていく。
「うっわ!!なんだよこの紫の汁!俺が落ちた所もこんな感じだったけど、ほんと、見たこと無い木ばっかで嫌になるぜ」
「地球のアマゾンに不時着しても見たこと無い木ばっか、だけどな」
確かにその通りだった。さらっとそんな反応を見せる辺り、適応力とでも言うのだろうか、こんな異星の地の危機であってもそれはきちんと発揮されていたようだ。感心するべきか呆れるべきか、それとも素直に頼もしいと思うべきか、キッドが見上げると、いつの間にかボウイはキャノピーを上げてコックピットに収まっていた。
「あっ!なにラクしてやがんだてめえ!」
「なあ、キッドさん。もう二、三歩、こっち来て。いーから、ちょっと、、そう、その辺」
パシャリ。
手首をかざして、ボウイは通信機についている機能でブライスターの足元に立つキッドを写真におさめた。
「ココから離れる時が、、、一番つらかった。踏ん切りがつかなくてさー。今にもキッドが現れるんじゃないか、移動した途端に入れ違いになるんじゃないか、、ってさ」
みんなの前でネタにしそこなっていた思い。怪我ひとつなく五体満足なキッドがそこに立っている姿を、どれほど望んだ事か。
「俺は、、」
「お、、聞かせて聞かせて」
横倒しになった木に腰を下ろして、ブライスターのボディのどことは無しに見つめていたキッドが、ゆっくり目を閉じ、そして開いた。
「空で、、、ブラスターピットから離脱した直後。お前と、、コイツが、、、、墜ちていくのが見えた」
意識が薄れてしまい、不時着なのか墜落、、なのか、ボウイが離脱したのかどうか、、それすら確認しきれなかった事をキッドは何度も悔やんだ。
「お前はもう居ないんじゃないかって考えを、、否定し続けるの、とんでもなくエネルギー消費したぜ?」
当人の前で肩をすくめて笑う事はできても、やはりみんなの前では冗談に出来なかった空で見たあの光景。
「やっぱ二人だけでココ来て正解。よかった、、、会えて」
居るべき場所に、居て欲しかった場所に、今は居る。この機体の回収は、受けたダメージを吹っ飛ばすのにもってこいのイベントでもあった。あの時、搭乗していた二人には特に。
これで AZ に絡んだあれこれの片付けに一応のケリをつけ、新たな日々がスタートできる。その実感に、フライバイを決めた日の高揚が重なる。
「、、よし、、、よしっ!よくやったボウイ!!ナイスランディング!パーフェクト!!さすが飛ばし屋ボウイ!」
「いえーい!ブラボー!キッドさんエライっっ!!ワンダフルサバイブ!!パワフルファイっっ!!さっすが俺ちゃんの惚れたオトコっ」
うっかりおかしなテンションにはまりこみ、ありとあらゆる誉め言葉を怒鳴りあう。二人だけで、正解。