-神に愛されし者-

□第5夜【初めてのお買いもの】
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朝食を食べ終わり、約束の為にリナリーの部屋を訪れたシナデ。


因みに服装は 動きやすい私服のままである。



[コンコン…]


‘はーい、今開けるわ!’


[ガチャ…]


『…おはよう…リナリー…』


「シナデ、おはよう!

 もしかして迎えに来てくれたの!?」


『…ご飯…食べ終わったから……早かった…かな…?』


「そんな事ないわ!

 私こそ迎えに行けなくてゴメンね。

 準備してたら遅くなっちゃった…」


『…ううん…大丈夫だから…』


「(あぁもうシナデ可愛い!!)」


『…?』



ふるふると首を横に振る彼女に何故か悶えているリナリー。

いきなり彼女が後ろを向いたので、頭に疑問符を浮かべるシナデ。



「と、とりあえず中へ入って。

 もう少しかかるから、座って待っててくれる?」


『…うん…お邪魔します…』



部屋へ通してもらい、椅子に腰掛ける。



「…あら?」



その時何かに気付き、声をもらすリナリー。


次の瞬間、彼女の笑顔に黒いオーラが纏った気がした。



「…シナデ、その服どうしたの?」


『…これは…朝から…鍛練して……あ…日課で…』


「日課…はまぁ良いけど。それから着替えた?」


『…あ… (忘れてた…)』


「フフフ…大丈夫よ、私の服を貸してあげるわ。

 ついでにシャワーも浴びましょう? 一緒に」


『…う…うん…?

(…なんだろう…リナリー…雰囲気違う…?)』



半ば強引に手を引かれ、シャワールームに連れていかれたシナデ。


彼女でも気付ける程、リナリーは黒ーい笑顔を張り付けていた。



───…



「…はい! これが1番似合ってるわ!」


『………』



リナリーにコーディネートしてもらった服。

上は白い襟付きシャツ。

下はタータンチェックのスカートと、シンプルな感じに仕上がった。


胸がキツそうだというのは内緒の方向で…


三つ編みはそのままに ハーフアップに結んで、いつもと髪形が違い雰囲気も変わっている。

さすがといったところか、シナデの為のコーディネートは中々のものだ。


だが先程から黙ってしまっているシナデ。

心配に思い、リナリーが聞いてみた。



「…気に入らなかった…?」


『…あ…あの…』


「?」


『…そうじゃない…と思う…けど…なんか…変な感じ…なの…

 …人に見られると…変な感じ…』


「人に見られると……もしかして、恥ずかしいってことかしら?」


『…恥ずかしい…?…これ…が……』



どうやら彼女は恥ずかしがっていたのである。

だがそれを“知らなかった”ので、どう返せばいいのか分からなかったのだ。



「ふふっそっか、恥ずかしがってたのね。

 もう可愛いんだから…」


『…あの…ありがとう…リナリー…』


「どう致しまして。

 それじゃあ行きましょうか!」


『…うん…』



リナリーはシナデの手を引き、早速街へと向かうのであった。



* * *



黒の教団からほど近い 大きめの町。


まだ霧が少し立ち込めており、お店はカフェぐらいしか開いていなかった。

リナリーが朝食を食べていないということもあり、そのカフェに入る。


シナデもタルトケーキを注文し、ちょっとした会話と共に時間は過ぎていった。



「そういえばシナデ、何か買いたい物はある?」


『[もぐもぐ…] 買いたい物……あ…』


「あら、何か思いついた?」


『…昨日…食堂で…アレンと神田が…喧嘩…したんだけど……いつの間にか…私…頬を切ってたの…』


「え!? 大丈夫なのシナデ!?

 貴女の可愛い顔に傷なんて!!」


『…うん…もう治ってるよ……なんともない…でしょ…?』



シナデは頬の真ん中辺りに指を当てた。

そこには確かに傷なんて見当たらない。



「そう、何事も無くて良かった…

 (シナデの頬を傷付けた奴…しばかないと)」


『…その時に…アレンがハンカチを…貸してくれたの…

 …でも…血が着いちゃって……どうしたら…いいかな…?』


「なるほどね…そういう時は、新しいハンカチを買って渡すっていうのが無難かしら。

 アレンくんならそれで十分喜んでくれるわよ」



なんだか色々と黒いが…シナデは気付いていない。



『…そっか…じゃあ…ハンカチ…欲しい…』


「分かったわ。

 雑貨屋に売ってると思うから、途中で寄りましょ」


『…うん…』



ちょうど食事を食べ終わったので、早速ショッピングへと繰り出した。


シナデ自身が欲しいものはハンカチだけだったが、リナリーはいろんなお店に立ち寄る。

服屋や雑貨店に靴のお店、女の子ならほぼ必ず訪れる所だ。


もちろん自分のものだけではなく、シナデの分も選んだリナリー。

お風呂上がりや休日に着る私服や靴を二着程。

鍛練や団服の中に着る動きやすくてお手頃なものを何着か。

リナリーがお勧めしてくれた、十字架のチェーンピアス。

それといくつかの小物も。


今日は2人だけだったので、あまり大荷物にならない程度に。

荷物持ちにされそうな人は出払っていたので。


それが誰なのかは、ご想像にお任せします。


話は戻り、後はアレンへのお礼として 貸してくれた物に似たハンカチを包装してもらった。

途中でお昼ご飯も挟み、話もしながら買い物をしていれば、既に夕焼け空へ染まっている。



「時間が立つの早いわねー…もうこんな時間だわ」


『…そうだね……夕暮れ…綺麗…』


「えぇ… (ピュアね…可愛い…!)」



オレンジ色の空を見上げるシナデと、またちょっと悶えているリナリー。


しばらく見ていたシナデだが…



‘そろそろ店じまいだから、安くしとくよー’


『…?』



ふと聞こえた誰かの声に、耳を傾けた。



《ここじゃ珍しい日本のアクセサリーや髪飾りだよ、見ていかないかーい?》


『………』


「…シナデ? どうしたの?」


『……日本…の…』



ボソリと小声で零したが、隣にいたリナリーにはちゃんと聞こえていた。



「…興味あるの? シナデ」


『……うん…』


「じゃあ見に行きましょ。私も興味あるしね!」


『…うん…!』



シナデの思いを察して、彼女の手を引きそのお店へ。

店といっても、通りで 商【あきな】いをしている程度の小さな所だが。



「すいません、見ていってもいいですか?」


《おや、いらっしゃい。

 勿論 いくらでも見てっておくれ》


「ありがとう! えーっと…」


『………』



品揃えには 簪【かんざし】や 数珠【じゅず】等、日本らしい物ばかり。

可愛い飾りがついた物もあれば、シンプルなデザインの物も。


その中でシナデは、1つの数珠を見つめる。



「わぁ可愛い…!

 あ、これなんかシナデに似合うんじゃないかしら?」


『……』


「シナデ?」



見つめていた数珠を手に取った。

黒に近い紺色の石で、その1つに梵字の【オン】

神田の胸にある呪符と同じ字が刻まれている。


掌にのせたそれを、穴が空きそうなくらい見つめ続けるシナデ。


そして何かを決心したのか、掌の数珠をキュッ…と握る。



『……あの…これ…ください…!』


「!」


《あぁ、ありがとう。

 プレゼント用に包むかい?》


『…え…っと……』


「(シナデ、頑張って!)」


『……お願い…します…!』


《はい、ちょっと待っててね》


『…はい…』


「…良かったわね、シナデ」


『…う…うん…』



店員のおばあさんに包装してもらい、代金を渡して店を離れる。

思えば彼女が、自分の意志で人への贈り物を買ったのは初めてだ。

恐らく目覚めてからを限ってだが。


そういう意味でもリナリーは驚いた。

でも彼女は止める事も無く、あえて助言はせずに見守ってくれたのである。


隣を歩くシナデを見ながら微笑み、自分の袋から1つの包みを出したリナリー。



「シナデ…はい、これ」


『…? …これは…?』


「ふふっ、開けてみて!」


『……!……これって…さっき売ってた…』


「うん、簪よ。

 貴女に似合うと思ってこっそり買ったの……シナデへのプレゼントよ!」


『…リナリー……ありがとう…!』


「こちらこそ、ありがとう!


 さ、帰りましょうか」


『…うん…』



こっそり買っていたという簪を彼女に渡し、また手を引いて教団の帰路についた。


はてさて、ではシナデが買ったプレゼントは誰にあげるものでしょうかね?



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