-神に愛されし者-

□第2夜【魔女の棲む村】
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シナデの前髪を梳き、そして頬に触れる。



「……シナ」



そっと、彼女の愛称を呼んだ。


いつもとは違う、呼び方を。



「(…お前は…感情は戻っても、記憶は…思い出さなくてもいい。


 その方が…───)」


『…ん…』


「!」



その時、シナデが顔を歪める。

だが少し体を動かしただけで、起きたわけではなかった。



「……チッ、仕方ねェな…」



すると神田は、シナデの隣に座る。

彼女の肩を引き寄せ、自分の肩に頭を乗せた。


硬いであろうが、枕代わりにしてくれた神田。

そして自分も、目を閉じた。



───…



汽車がミッテルバルトに着いたのは、昼過ぎの時刻だった。



「おい、シナデ。着いたぞ」


『…ん…か…んだ…?』



神田の声で目を覚ましたシナデ。


すると自分の顔が、彼に近いことに気付く。



『……あ…私……ごめん…』


「…いや、いい……行くぞ」


『…うん…』



2人は汽車を降りて、ダンケルン村に続く森に向かった。


神田が少し赤くなっていたのは、内緒の方向で…



* * *



ミッテルバルトの町を抜け、目的の村へ向け進むと 鬱蒼と木々が生い茂る森が見えてきた。



『…神田…あれが…“帰らずの森”…?』


「だろうな…一応道を聞いてみるか…」



前から来る老婆に、ダンケルン村への道のりを聞く。



「あの村へ行くのかい?

 あそこは昔からイヤな噂のある村なんだよ」


「イヤな噂?」


「あぁ…“魔女”が棲んでいて 道に迷った子供を捕まえ、喰っちまうのさ!」


『(…嘘じゃ…なさそう…)』


「(コムイが何かあるって言ってたやつか…)」


「悪い事は言わない。

 “魔女の村”に興味本位で近づくのはやめな?」


「ダンケルン村へ行くには、一本道があると聞いているんだが」



神田達が帰る素振りをみせないので 老婆は諦めたのか、深々とため息を吐いた。



「しょうがないね…あそこに“ダンケルン村”って立て札があるだろう?

 あの道をまっすぐ行って森を抜ければ、村に着くよ」


『…ありがとう…ございます…』


「行くぞ」


『…うん…』



早速向かおうとする2人の背に、老婆が声をかける。



「でもあんた達、本当に行くのかい?」


『…はい…』


「あの村は最近、人が帰ってこないって言われてるんだよ。

 つい2日前にも、3人組の男が森に入っていったが……戻ってきていない」


「その3人を探しに行くんだ」


「あぁ……」



老婆は顔を歪めてそれ以上何も言わなかった。


「戻ってこられるといいがね…」と小さく呟くのが耳を掠る。



* * *



神田とシナデは、立て札通りに進むと見えてきた森に入った。

森の中は不気味な程静かで、生い茂る木々で夜の様に暗い雰囲気が漂っていたのだ。



「…人の気配が無ェな……探索部隊【ファインダー】の奴等、何処にいやがる」


『…この先…かな…?

 …村に行ったら…分かる…かも…』


「そうだな、このまま進むか…」



歩みを再開しようとした瞬間、神田達は常人には聞き取れないであろう足音 そして殺気を感じる。

2人が振り返った瞬間、斧を振りかざす男が後ろに立っていた。


神田とシナデは難なく避ける。

そして 六幻【ムゲン】を引き抜き、男の腹を峰打ちした。



「ぐうっ!」



男は腹を押さえてのたうち回ったが、覚醒した様に目が見開かれる。


そして男は“アクマ”へと変貌した。



『…!…アクマ…』


「やはりな…シナデは下がってろ。

 相手は1体、俺だけで充分だ」


『…了解…』



イノセンスを発動しようとしていたシナデを制し、神田は1人アクマに向かう。

1体だけだったので、あっさりと仕留めた神田。


静寂が戻ってすぐ、カサリと木の葉を踏む音がした。



「誰だ!」


「こ、殺さないでください!!」


『……人…?』



音のした方に刃を向ける。

そこには明るめの赤毛に翠眼の、体が大きな男性が降参のポーズで立っていた。


彼が来ていた服は 黒の教団 探索部隊【ファインダー】の証である、白いフード付きコートだったのだ。



*
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