-神に愛されし者-

□第1夜【序章前の休日】
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黒の教団本部外にある 広い森。

まだ日の昇らない時間なので、真っ暗で不気味な雰囲気を漂わせていた。


そこで神田は 六幻【ムゲン】を手に 鍛練を行っている。

シナデはというと、離れた木の上で ぼー…っと空を見つめながら風に当たっていて。


それから森に来て何時間か経ち 日も昇り始めた頃、神田が刀を振るのを止める。



「……そろそろ終わるか」



少し大きな息を吐いて、鞘に納めた。


ふと、一緒に来た彼女を思う。



「(…アイツ、ほっといたらいつまでもいそうだな……仕方ねェ…)」



そう思いながら、彼女の居るであろう木の方に向かっていった神田。


案の定、シナデはまだ木の上で空を見つめていた。

その瞳は「見惚れている」というものではなく、生気が感じられない目をしている。


ただ、そこに居るだけの。



「シナデ」



神田は、そんな彼女を ただ“普通”に呼んだ。

シナデは 我に返ったかの様に体を揺らし、視線を神田に向ける。


その瞳には少しだが、ちゃんと生気が宿っていた。



『…神田…鍛練…終わり…?』


「…あぁ。メシ行くぞ、お前も来い」


『…うん…』



ストッ…と木の上から降り、神田の前に着地したシナデ。


それから並んで、また2人で食堂へ向かう。



───…



食堂へ着くと、2人は早速料理を注文しにカウンターへ。

そこではこの食堂の料理長、母性を醸し出す男(?)ジェリーが注文を承っていた。



「お待ちどーん! …っと、アラん?

 神田とシナデちゃんじゃな〜い!

 おはよう! 何食べる〜?」


『…おはようございます…ジェリーさん…』


「天ぷら蕎麦」


「神田は天ぷら蕎麦ねー!

 シナデちゃんは?」


『…えっと…ざるうどんと…野菜炒め…

 …デザートに…今日はタルト…ありますか…?』


「あるわよ〜!

 今日はシナデちゃんの好きな苺のタルトよ!」


『…じゃあ…その3つで…お願いします…』


「分かったわ!

 ちょっと待っててね〜!」



注文をし終え、料理が出てくるまでカウンター近くで待つ間。

聞き慣れた声が2人の名を呼んだ。



「あっれー? ユウにシナデさー!」


「あら、シナデと神田じゃない。

 おはよう!」


『…リナリー…“ナビ”…おはよう…』


「…チッ」



神田達の名を呼んだのは、同じ黒の教団エクソシスト。

ツインテールの女の子 リナリー・リー。

赤髪緑眼&隻眼の青年 ラビ。


2人も朝食を食べに来たようだ。



「ユウ今舌打ちしただろー!

 それにシナデ―、オレの名前は“ラビ”さー!」


『…あ…うん……ごめん…』


「テメェこそ俺をファーストネームで呼ぶんじゃねェつってんだろ!!」


「それとこれとは話が違うさー!?」


「違わねェだろバカウサギ!!」


「お待ちどーん! 出来たわよ〜!」


「…シナデ、料理出来たみたいだから食べましょう?」


『…うん…』



朝食そっちのけで言い合いを始めた神田とラビ。

リナリーはそんな2人を置き、シナデを連れて席に着く。


リナリーの笑顔が少し黒かったのは、誰も気付いていなかった。



「ちょっとあんた達! アタシの料理が冷めるじゃない!

 リナリーとシナデちゃんはとっくに食べ始めてるわよ!!」


「へ!? あ、ほんとだ…」


「…チッ!」



ジェリーから諌められた2人は料理を受け取り、リナリーとシナデが食べる机の向かい側に座った。

(因みに神田はラビに強制的に連れてこられました)



「酷いさリナリー! シナデ連れて先に食べるなんてー!

 せめて止めてくれさー!」


「私はシナデとご飯が食べたかったの。

 喧嘩し始めた2人が悪いんでしょ?」


「(な、何かリナリー黒いさ…!?)」


「(…コイツ、シナデの事になると性格変わるな…)」


「シナデ、私のサンドイッチ少し食べる?」


『[もぐもぐ…] 貰う……リナリーも…タルト…いる…?』


「ありがとう、少し頂くわ」


「(そしてさらっと流されたさ…)」


「(バカウサギの奴、流されてやがる…)」



置いてきぼりにされたラビはうっすらと涙を浮かべていたという。


そして神田はそんな事お構いなしに蕎麦を啜っていた。



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