-Sham Gud ulv-

□#eitt【聖戦の序:前編】
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イタリア トリノにある教会。

関係者以外は知り得ない、静かなる地下にて。


今此処にいる人間は、言葉を発さない。

否、紡ぐのは自分ではなく、目の前の“者”だからだ。


僅かな光の中で目立つ、薄い水色の髪。

今でいう スーツの様な礼装を纏い、腰には白の薄布。

ゆるく上がった瞼の奥に見えたのは、赤黄間の色 橙の瞳。

ハネているにしては 動物の耳にも見える頭部の髪をそのままに、女は口を開く。



『サーヴァント、ルーラー。

 召喚に応じ、参上した。


 我はこれより 第4次聖杯戦争の裁定者として、

 監督役を 主【あるじ】に、力を奮うことを誓おう』



立ち上がり、自分とさほど変わらない身長の 瞳を閉じたカソックの老人を見やる。


しばらく見つめた後、瞳を細め ふわりと笑った。



『…57年ぶりだね、璃正』


「あぁ…久し振りだな、メリル」


『えっへへ……そう呼んでくれるの、嬉しいわ』



神父の風貌である男 名を 言峰 璃正。

第3次聖杯戦争で監督役を務め、3年後に行われる 第4次聖杯戦争でも 同じ監督役。


そして「メリル」と呼ばれた はにかむ女性。

雰囲気からして 人間ではない彼女は、聖杯戦争に欠かせない 存在【サーヴァント】


クラスは 裁定者【ルーラー】

監督役をマスターとして召喚された彼女の役割は、調和と記録。

そして時には、令呪【足枷】を失ったマスターの代わりに、

どんなサーヴァントでも討てる程の力を兼ね備えた 冬木では最強のクラス。


本名…いや、真名は ヴァルキュリア・フェンリル。

半神 ワルキューレの魂と 神獣 フェンリルの魂を、魔術協会の手によって その体へと結び付けられ、

【生きながらの英霊】となった 元魔術師家系 アリスウルフ家の人間“だった”もの。


この2人の絆は 60年来のものであり、今も消え失せてはいなかった。



───…



「とりあえず、何か飲むか? 地下は埃が酷かったからな」


『あ、貰うー。じゃあね〜…紅茶!』


「ふむ…確か、ミルクだったか?」


『そーう! さすが璃正! 覚えてくれてるのね〜♪』



召喚を行った地下から上がり、私室の椅子に 腰を下ろす。

璃正は至極当然に、彼女がミルクティーを好むのを覚えていた。


前回の聖杯戦争から かなりの年月が経っているが、彼はこれでも「八極拳」の達人。

記憶力も 身体も 衰えていないのである。



『…んあー、おいし〜い♪』



顔をほころばせ、獣耳の形をした髪『耳髪』が ピコピコ動く。

その様子を見て 璃正も微笑し、向かいの椅子に腰掛け、コーヒーを啜った。


ひと息ついた後、彼は口を開く。



「メリル、お前を3年も早く喚んだ件だが……少々、興味深い事態になってな」


『…ん? 興味深い? なになに?』


「実はな…───」



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