-孤独の戦士-

□code.8【2人の近界民】
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「平気平気、ぜんぜん平気。ケガなんてしてないよ」


『ハデに転んでたのに、頑丈だなお前…』



服のほこりをはたく少年を、若干呆れ顔で見る彼女。

見た目は普通の奴だな…と腕を組んで 片隅に思いながら。



「自転車の練習してるの?」


「友達を待ってんだ。その間ヒマだから、練習してるだけ」


「そうなんだ、わたし達もここで待ち合わせしてるの」


「ほう、奇遇ですな」



目的は同じのようで、自然と親近感が湧く。

興味は湧くが、話は親友に任せて 聞き専に徹しようとした。



「…おまえら、自転車乗れる?」


「え? うん、一応…」


「……やるね」


「そ、そうかな…」



…のだが、自転車の話題で 次にちろりとアユを見る遊真。

漢字三の目に口を尖らせた表情は、おまえはどうなんだと物語っていて。


少し間をあけて、口を開く。



『…持ってないから分からん』


「ほう…おれと同じか」


『おい、乗れないとは言ってないぞ』



居住地は本部の部屋のみで、玉狛にも自転車は無い。

つまり乗ったこともないのだが、またも三の目で決めつけてきた少年に ほんのりカチンとくる。

やりとりが面白かったのか、千佳はクスリと笑った。



「こんな絶対転びそうな乗り物が どんなしかけでまっすぐ走ってるのかと思ったら、

 別になんのしかけもなかった……驚愕の事実…!

 これで倒れずに走れるのがふしぎだ……日本人が特別に訓練されてるのか…?」


『あ、それ一理ある』


「(アユちゃんと同じ、外国の子なのかな…?)」



勿論、元の世界にも存在しない。

主な移動手段は、船だったのだから。


その話はまた後日するとして、遊真の謎に共感したアユ。



[ピロリロリロ! ピロリロリロ!]


「あ」



ちょうどその時、千佳のスマホから着信音。


彼女が電話中も、2人の会話は続く。



「ふむ…ということは、おまえも日本人じゃないのか?」


『あぁ、他所から来た。その言い方だと、お前も?』


「うん、おれもよそから来たよ」


『ふーん…あ〜もう少しバランスとった方が……あ』



鮎は遊真が 近界民【ネイバー】だというのを知らないし、逆も然り。

少し濁した言い方だが、お互い嘘は言ってない。

“副作用【サイドエフェクト】”も発動しない訳である。


話しながらもまた乗り始めた彼だが、やはりガタガタ揺れて 地面にダイブ。



「わっ! 大丈夫!?」


「大丈夫大丈夫」



ちょうどスマホを耳から離した千佳が駆け寄る中、後ろのアユは苦笑いだった。



「おっ? おおっ!? これは!? 走ってる! ちゃんと走ってる!!」



上達のコツはとにかく乗ることもあるが、誰かの協力が望めるなら 後ろから押してもらうのも一手。

雨取が押し、空閑が漕ぎ、仮峰は静観。



「これはつかんできた…だんだんコツつかんできたぞ!! つかん……どぅわー!!」


「わぁ!?」


『あ〜あ…』



次第に勢いがついてきて、少女の手から離れてしまう。

バランスを保ち、遂に成功かと思われたが…到着地は川の中。


髪を掻いて呆れつつも、驚く親友より先に動いたのは やる気なさそうな彼女だった。



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