-孤独の戦士-

□code.6【数撃ちゃ当たる:前編】
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【米屋side.】



「このタイミング…なんか“読まれてる”っぽいなー」



近界民【ネイバー】と繋がりがあるかもしれねぇっていう、

メガネボーイの家を張ってたら、突然迅さんが現れた


そんだけならまだしも、あの人はオレらに命令書渡して 外出したメガネを追いかけていくし



「迅…!」



秀次もめっちゃ怒ってるわ…



「今日の所は戻ろうぜ、命令出ちまってるんだし」


「…あぁ。まだ機会はある」



不満そうにしてるけど、オレと違って頭良いから ちゃんと考えてんだろうな〜…


さーってと、人型 近界民【ネイバー】とやるのはお預けか。



「なぁ、帰ったら模擬戦しようぜ秀次」


「ふざけるな、命令が出ているとお前も今言った所だろう」


「だぁってさ〜!

 近界民【ネイバー】と戦えなくてスッキリしねぇし、

 弾バカは遠征行ってて相手してくれるやつ居ねぇんだし…───」



あぁ〜もの足んねぇな〜……ん?

本部に戻るから、来た道を帰ってる途中 前から誰か歩いてくる

そりゃあここ住宅街だし、珍しくもないわな



「…!!」



自分でも つい数秒前までは戻ることくらいしか考えてなかった

だってそれが“普通”なんだから



「君っ!!」


『…!』



気が付けば 声を張り上げていた

無意識で、全く使わない二人称で


すれ違っただけの事

それだけでほんのり良い香りがして、髪がツヤツヤで



「(陽介…?)」



隣にいた秀次が 珍しく驚いた顔をしているのを、視界の端に写す

今のオレには、いじる余裕も無いけど



『…何か?』



彼女は立ち止まって、こちらを向いた

金より薄い色素の髪に、有名な宝石みたいな緑の瞳で

切れ長に開かれる目で、真っ直ぐオレを見てる


俗に言う【一目惚れ】を、オレはしちまったみてぇ…


整った顔立ち、声、全て…一瞬で好きになっちまった。



* * *



「…君の…名前は?」



休日のまだ朝早い時間。


米屋はすれ違いざまに話しかけた女の子に対
し、おずおずと問う。



『(…バレて、ないのか? 驚かせやがって…)』



一方アユの方は その言葉に目を見開くも、

気付かれた訳では無いことが分かり、密かに胸をなでおろす。

嵐山の件で慎重になっていた所なので、心臓に悪い。



『…人に名を聞く時は、自分から名乗るんじゃないですか?』



少し嫌味を含めて、一応当たり前なことを返す。

すると、米屋の横にいる三輪がうっすら睨んできた。

おそらく 感じが悪い奴だな…とでも思っているのだろう。

お前が言うなとツッコミたいところだが。



「お、おう…そうだよな…」


『………』



そんな事など露知らず、口角を上げている印象が多い彼が みるからに残念そうで。

実際早く追いかけないと、見失ってしまう可能性が高く 彼女もこう言ったのだ。

だからといって 悪気を感じない訳では無いので、溜息を吐く。


少しの間の後、口を開いた。



『すみませんが 急いでますので、私は貴方の名前だけを聞きます。


 ちゃんと覚えますから、今度会えた時に 私の名前を教えると約束します……それでいいですか?』


「え…今度………あっ!!」



米屋に向き直り、ひとつひとつ区切りながら伝えた。

仮峰としては、彼が太刀川並の頭の悪さなのは知っているので。


要約すると 次会った時にはちゃんと話をします、という意味。



「米屋っ! 米屋陽介! 好きに呼んでくれ!」



どうやら意味合いが伝わったみたいで、慌てながらも 少し大声で叫んだ。



『…“こめや”さんですね、覚えました。では、また』



自然にうっすら笑みを浮かべ、踵を返して去っていった彼女。

わざとではなく、クセからの呼び方で。



「…おい陽介、思い切り間違えられてたが?」



離れていく背中を 放心状態で見つめているカチューシャ男。

そんな彼に、ちょっと心配になって話しかける三輪。



「……全然気にしねぇ…いや、むしろ嬉しいわ!

 なんかあだ名付けられたみてぇで!」


「………」



しかし 良心虚しく、頬を紅く染め ただ喜んでいる米屋。


こいつ…重症だ…

三輪が友人を見つめる瞳には、哀れみと呆れが含まれていた。



「(…あれ? そういや“アイツ”も、オレのこと…───)」



自然と 歩みを本部に向けて再開させた2人だが、ふと 彼は思った。

同僚…といえば同僚に、間違えたままクセづいて『こめや』と呼ぶ人間がいる事を。


実は同一人物であることなど、青年達は知るよしもない。



*
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